「ついに来たわ、復讐の機会が・・」
りえはそう言って頭巾を取り去ると、美津達の居る壬生へと向かった。
一方美津達は屍たちを次々と蹴散らしていった。
「この調子なら、日没までに片がつきそうですね!」
「そうね!」
美津が額の汗を拭ったとき、彼女は突然激しい胸の痛みを感じて地面に蹲った。
「どうなさいました、姫様?」
「わたしから・・離れて!」
「姫様?」
四郎が心配そうに美津の顔を覗き込むと、彼女の顔は苦しげに歪んでいた。
「どうした、一体何が・・」
異変に気づいたエーリッヒが美津に駆け寄ろうとしたとき、美津が突然獣のような唸り声を上げた。
「姫・・様?」
呆然とする四郎とエーリッヒを前に、愛らしかった美津の顔がまるで般若のような恐ろしい形相となり、獣のように牙を剥き出しにして唸った。
突然の美津の異変になすすべもなく、四郎とエーリッヒは彼女から少しずつ後退していった。
(姫様に一体何が起きた?あの顔は・・)
「漸く目覚めたか、鬼姫よ。」
漆黒の闇の中で玲瓏とした声が響いたかと思うと、ひらりと鬼神が四郎達の前に現れた。
「貴様、何しに来た?」
「わしはわが花嫁を迎えに来たまでのこと。」
鬼神はそう言うと、愛おしそうに美津を見つめた。
すると美津も、柔らかな笑みを四郎に向けたのである。
目の前で繰り広げられている光景に信じられず、四郎は思わず槍を落としそうになった。
「しっかりしろ、四郎!気を抜くな!」
エーリッヒに檄を飛ばされ、四郎は我に返って辺りを見渡すと、路地の向こうから屍たちの群れがやってくるのが見えた。
「さぁ死人たちよ、新鮮な肉を食らうがいい。」
鬼神が屍たちに向かってそう命令すると、彼らはたちまち四郎達の元へと押し寄せてきた。
「くそ、このままではやられる!一旦退却するぞ!」
「だが、姫様が・・」
四郎がそう言って美津の方を見ると、彼女はうっとりとした表情を浮かべて鬼神を見つめていた。
その顔には、いつもの愛らしさが戻っている。
(姫様・・何故・・)
憎んでいた筈の男に笑顔を向ける美津の姿を見て、四郎は激しく動揺してしまい、敵に隙を作ってしまった。
「四郎!」
エーリッヒの鋭い声で我に返った四郎だったが、彼の脇腹は屍の刃が深々と突き刺さっていた。
「おのれ・・」
四郎は脇腹に刺さっている刃を抜くと、それを鬼神に向かって投げつけた。
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Last updated
2012.10.10 20:52:30
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