メイド達の手によって結い上げられた髪を鏡で見ながら、美津はいつ着替えが終わるのだろうかとイライラしていた。
「さぁ、あちらの衝立のほうへ・・」
「わかったわよ。いちいち指図しないで。」
彼女達は仕事をしているだけなのに、つい美津は声を荒げてしまう。
彼女が衝立の中に入ると、そこには身体を支えるための外套掛けがあった。
「あちらに掴まってください。」
「わかったわ。」
美津が外套掛けに掴まると、メイド達は美津の夜着を脱がし、下着の腰紐をきつく締め付け始めた。
「何するの!?」
「しばらく辛抱してくださいませ。」
「痛いわよ!」
一体彼女達は自分に何をしているのだろうか。
集団で自分をいたぶって、暗い喜びに浸っているのか。
美津がちらりとメイド達を見ると、彼女たちの顔には笑みは浮かんでいなかった。
寧ろ、事務的な態度を美津に取って仕事をこなしている。
「終わりました。」
やがてメイド達の手が腰紐から離れた。
全身を映す鏡を見ると、ウェスト部分がすこしくびれたように見えた。
だが、胸と腹部を締め付けられて呼吸ができないほど苦しかった。
「ねぇ、胸が苦しいんだけど、もうちょっと紐を緩めてくれない?」
「申し訳ありませんが、それはできません。」
「わたしの言うことがきけないの?」
「はい・・」
メイド達に少し腰紐を緩めて貰うと、呼吸が楽になった。
「では、このドレスをお召しになってくださいませ。」
「ええ・・」
「まだなのか、彼女は?」
「ご婦人のお支度はわれわれよりも時間がかかるものです。」
美津がメイド達によってイヴニングドレスへと着替えさせられている時、薔薇が咲き誇る英国式庭園で、鬼神が退屈そうに銀髪を弄りながら金髪碧眼の英国紳士を見た。
「レディ・ミツはどちらに?」
「あやつなら変身中だ。もうしばらくしたら出てくるだろう。」
「そうですか。彼女とはどちらで?」
「まぁ、昔からの誼と言っておこう。」
鬼神はそう言うと、紅茶を一口飲んだ。
すると、慣れないドレスの裾を摘みながら、美津が彼らの前に現れた。
「一体どういうつもり、わたしにこんな格好をさせて何を企んでいるの?」
美津がそう言って鬼神を睨みつけると、彼は美津の美しい変身振りに感心していた。
「まさに馬子に衣装とはよう言うたものよ。西洋の衣装を纏ったお前の艶姿もよう似合う。」
「ふざけた事言っていないで、わたしを四郎の元に返しなさいよ!」
「それはできぬ。」
鬼神はそう言うと、スーツの内ポケットから注射器を取り出すと美津を羽交い絞めにし、その鋭い針を美津の腕に刺した。
「やめて・・」
あっという間に意識が徐々に朦朧(もうろう)としてきて、美津は鬼神の腕の中でぐったりとした。
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Last updated
2012.10.11 14:40:06
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