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JEWEL

2012.10.12
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美津が四郎達の前で鬼神に拉致されてから、3年の歳月が流れた。

その間、幕府の情勢は徐々に悪化の一途を辿り、敵同士であった長州と薩摩が同盟を結び、武力行使による倒幕への動きを一層高めていった。

そんな時代の渦に、幕府の為に働く会津藩や新選組も少しずつ巻き込まれていった。

初めて四郎が迎える京の厳しい冬は、故郷のそれとは比べ物にならぬほど、骨まで凍えるかのような寒さだった。

その中で上半裸となり毎日鍛錬を欠かさずしていた所為なのか、彼は風邪をひいてしまった。

「大丈夫か?」
「すまぬ・・鬼が風邪をひくなど、聞いたことがないな。」
「ああ、まさしく“鬼の霍乱(かくらん)”ってやつだな。」
エーリッヒはそう言いながら、すっかり溶けてしまった氷嚢(ひょうのう)を四郎の額の上から退け、新しいものに変えてやった。
「情けないな、こんなときに病に臥せるなど・・」
「そう言うな。今はゆっくり身体を休めればいい。」
「わかった。」
「じゃぁまた用があれば呼べ。」

エーリッヒが部屋から出て行った後、四郎は大きな溜息を吐いた。

美津とともに居た頃は、風邪など一度もひいたことがなかった。
それ以前に、人ならざるものとなってから一度も病に臥せったことがなかった。
そんな自分が風邪をひいたのは、無理をしたからではない。
美津が居ないことで、四郎の精神的な支えが少しずつ崩れていったのだ。
彼にとって、美津はこの世の誰よりも愛おしい存在であった。
だが彼女が自分の前から消え、その行方もわからぬままであることが、知らぬ間に四郎の精神を消耗させていった。

(案外弱いな・・)

まだ人として生きていた頃、大きな怪我や病気ひとつしなかったのに、美津が居なくなったというだけで風邪をひくなんて、いつの間に自分はこんなに弱くなってしまったのだろう。
自嘲めいた笑みを口元に浮かべた時、不意に喉奥から何かがこみ上げてくるのを感じた四郎は、激しく咳き込んだ。
どうやら、痰が喉に詰まっていたらしく、懐紙で口元を覆って痰を吐き出すと急に呼吸が楽になった。
四郎は寝ようと思いながら身体を反転させた時、握っていた懐紙が畳の上に落ちた。
そして彼は、自分が吐き出したものが痰ではないことを知った。

懐紙は、鮮紅に染まっていた。

自分が患っている病は、風邪ではない。
かつて新選組の双璧(そうへき)と呼ばれ、最強の剣士と謳われた新選組一番隊組長・沖田総司の身体を今蝕んでいる病魔と同じものに、四郎は冒されていた。

(そんな・・そんな筈は・・)

四郎が畳の上に落ちた懐紙を握りつぶそうとしたとき、また激しい咳の発作が出た。

「四郎、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。済まないが、薬湯をくれないか?」
「ああ、わかった・・」

再び部屋に入ってきたエーリッヒにそう言った四郎は、彼が恐怖と驚愕で綯い交ぜとなった顔を見た。
「お前、口から血が・・」
「ああ、風邪だと思ったら違っていたらしい。鬼でも労咳になるとは、思いもしなかった。」
「畜生、どうしてお前がこんな病に!」
エーリッヒは突然そう叫ぶと、畳に拳を打ちつけた。
四郎の体調に気づかなかった自分を責めるかのように。
「誰の所為でもない。この病は発症するまで時間がかかる。」
「だが・・」
「わたしは姫様を取り戻すまで、死ねない。だからエーリッヒ、このことはみんなには黙っていてくれないか?」
「ああ、わかった。武士に二言はない。」
「ありがとう、感謝するよ。」
「じゃぁ、少し休んでいろ。俺は薬湯を持ってくる。」

エーリッヒは暫く顔を伏せていたが、さっと立ち上がると部屋から出て行った。

彼は恐らく、泣いていたのだろうなと思いながら、四郎は眠った。






最終更新日  2012.10.12 09:50:41
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