1869(明治二)年。
鳥羽・伏見からはじまり、甲州勝沼、会津、仙台と敗走を続けた旧幕府軍は、北へと敗走を重ねた末、蝦夷地へとたどり着き、そこで「蝦夷共和国」を樹立するも、新政府軍によって再び劣勢に立たされることとなった。
四郎とエーリッヒは土方とともに戦ったが、もはや蝦夷地が新政府軍によって包囲されるのは時間の問題だということに気づいていた。
「このまま、負け戦を続けるつもりなのか、土方君!?」
「じゃぁあんたは投降しろってのか、大鳥さん!」
蝦夷共和国に於いて参謀として活躍していた土方は、陸軍奉行・大鳥圭介と毎日のように今後新政府軍に投降するか、徹底抗戦するかで揉めていた。
「君はこれ以上、犠牲者を増やすつもりか?」
「それがどうした、俺にとっちゃ、ここが最期の死に場所なんだ!」
喉奥から振り絞るかのような声を出し、徹底抗戦を訴える土方の言葉を聞いた四郎は、全身を雷で打たれたかのような衝撃を受けた。
土方は、この地で潔く散ろうとしている。
「本当か、それ?」
「ああ、間違いない。副長は死のうとしている。今まで犠牲となった者達の為にも、最期まで戦おうとしているんだ。」
「そうか・・俺達も、副長とともに戦おう。」
「ああ。」
(姫様、もう少し待っていてください、この戦いが終わったら迎えに行きますから。)
首に提げた指輪をそっと握り締めながら、四郎は最後まで土方と戦う決意を固めた。
1869(明治二)年5月。
遂に新政府軍が函館を包囲し、四郎は弁天台場にて新政府軍を迎え撃っていたが、あっという間に孤立してしまった。
孤立した彼ら新選組隊士らを助ける為、新選組元副長・土方歳三は弁天台場へと向かう途中、一本木関門にて被弾し、戦死した。
皮肉にも彼の死後、榎本武揚は全面降伏し、これにより戊辰戦争は終結した。
「終わったな・・」
「ああ。」
「土方さんは今、局長とどんなお話しをされているのかな?」
「さぁな。それよりもわたしたちはこれからのことを考えねばなるまい。死に逝く者が遺した志を、いかに後世に伝えるか・・それが、この戦いを生き抜いたわたしたちに課せられた使命だ。」
「そうだな・・」
エーリッヒはそう言うと、美しく澄み切った空を仰ぎ見た。
その後四郎とエーリッヒは美津の消息を探しつつも、東京で商売を始めながら天下泰平の明治の世を生きた。
だが、彼女の消息はようと知れず、四郎は焦燥を募らせていった。
しかし美津は、彼らのすぐ近くに居た。
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Last updated
2012.10.12 16:12:21
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