「ねぇ、どうしてそんな子と遊んでるの?うちでゲームしようって言ったじゃん!」
薫と遊んでいた数人のクラスメイト達は、突然そう言った女児を一斉に見た。
「どうしてって、薫ちゃんと遊んでいる方が楽しいもん。」
「そうそう。だっていつもゲームしようって言っても、あたし達に触らせてくれないじゃん。」
「薫ちゃんと遊んでいる方が楽しいもん!」
クラスメイト達の言葉を聞いた女児は地団駄を踏むと、公園から出て行った。
「薫ちゃん、気にしなくていいからね?」
「うん・・」
女児が去った後暫く気まずい空気が薫達の間で流れていたが、彼女達は再び楽しく遊び始めた。
もう心配ないだろうと思った歳三は彼女達に声を掛けずに、スーパーで買い物を済ませて帰宅し、昼食を作った。
「千尋、飯できたぞ。」
「ありがとう。」
千尋がノートパソコンの電源を落としたのは、昼の1時を回った頃だった。
「一体この時間まで何してたんだ?またブログに何か書いてたのか?」
「うん、色々とね。薫はどうだった?」
「公園で仲良く友達と遊んでたぞ。もう心配ないな。」
「そうやね、美輝子にも友達ができたようやし。問題はあの女ね。」
「また吉田さんのことか。飯食ってるときくらい彼女のことは忘れろよ。」
「でも許せんのよ、あの女!徹底的に潰してやらんと気が済まん!」
千尋はそう言って醜く顔を歪ませながら、テーブルを拳で叩いた。
「なぁ千尋、ビラに書いてあることは確かに酷いけど、お前が彼女と同じ土俵に上がって泥仕合までするってのはどうかと思うぞ?冷静になって考えたら、向こうがお前を中傷したんだから、その証拠を集めて告訴した方がいいんじゃねぇのか?」
「そうかもしれん。」
夫の言葉に怒りで我を忘れていた千尋は、吉田夫人への怒りが収まった。
「少し怒りで周りが見えなくなっとった。ありがとう。」
「いや、いいんだよ。それよりももうすぐGWだろ?婆さん家にでも行くか?」
「いいね。最後に行ったのは旧正月以来のときだし。」
4月下旬、歳三達は久しぶりに清子の元へと訪れた。
『元気そうだね、二人とも。もう誰にもいじめられていないかい?』
『うん!』
『ちょっと待っててね。今からお昼を作るからね。』
清子がキッチンへと消えていった後、外の方で何か音がしたので歳三が玄関先に向かうと、そこには花束を持ったソンヒが立っていた。
『ソンヒ、どうしてお前ここを知ってるんだ?』
『どうしてって・・あなたのお祖母様にはよくしていただいているもの。快気祝いに来たのよ、いけない?』
ソンヒはそう言うと、にっこりと笑った。
『快気祝い?何のことだ?』
『あら、知らないの?じゃあ教えてあげるわ、ヨンイル。この前、あなたのお祖母様仕事中に倒れたのよ。』
初めて祖母が倒れたことを知った歳三は、その衝撃を受け暫くその場に立ち尽くしていた。
「トシ兄ちゃん・・」
千尋が玄関先に現れ、歳三とソンヒを交互に見た。
『お久しぶりです。』
『あら、お久しぶりね。てっきりヨンイル一人だと思っていたから・・』
笑顔でそう話すソンヒとは対照的に、千尋の表情は硬かった。
『それで?一体何をしに来られたんですか?』
『何をしにって・・お祖母様の快気祝いに決まっているじゃないの。もしかして、あなたもお祖母様が倒れたこと、知らなかったの?』
ソンヒは勝ち誇ったような笑みを口元に浮かべながら、千尋と歳三を交互に見た。
数分後、気まずい空気の中で歳三達は清子とソンヒを囲みながら昼食を食べていた。
(突然やってきて、一体何するつもり?)
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