「へぇ、そうだったんだ。前から薄気味悪い人だと思ってたのよね。」
美輝子はそう言ってコーヒーを飲んだ。
「それよりもお姉ちゃん、荷造りはもう終わったの?」
「うん。卒業式が終わったら、すぐに渡米するつもりよ。あたしが居なくなったら、パパのことをよろしく頼むわね。」
「わかりました。」
姉妹が互いに笑いあっていると、薫の携帯が鳴った。
『もしもし、カオルちゃん?』
『ミジュお姉さん?お久しぶりです。』
『久しぶりね、カオルちゃん。ミキコちゃん、来年の春から一緒に暮らすことになるから、ご挨拶にね。』
『そうですか、こちらこそ姉を宜しくお願いします。』
『ええ。』
通話を終わらせ、携帯を閉じた薫は、姉の方へと向き直った。
「誰から?」
「ミジュお姉さんからよ。電話だけだけど、挨拶を済ませておいたわ。」
「そう。これから色々と忙しくなりそうだわ。」
「そうね。お姉ちゃんと一緒に居られる時間は短いんだし。さてと、受験勉強に戻るとするか!」
薫は溜息を吐くと、再び参考書とノートを開いて勉強を再開した。
「ねぇ、この問題これで合ってるかな?」
「うん、どうかしら・・大丈夫よ、これで合ってるわ。」
「次の模試でいい点を取らないと、希望校の合格ラインに届くか届かないかの瀬戸際なのよ。」
「あまり無理しないようにね。」
「わかってるわ。お姉ちゃんみたいに器用じゃないけど、あたしはあたしなりに頑張るわ。」
「その意気よ、薫!」
美輝子はそう言うと、妹の肩を叩いた。
冬休みが終わり三学期に突入してから、薫達三年生は受験と模試の日々を送っていた。
「あたし、受かったのよ!」
「え~、いいなぁ。」
薫は溜息を吐きながら、先に志望校の合格が決まった友人の笑顔を羨ましそうに見ていた。
「あんたのお姉ちゃん、何処の高校行くの?」
「ああ、お姉ちゃんなら渡米して向こうで暮らす予定よ。」
「ええ、そうだったの!?てっきり同じ高校に行くと思ってたわ!」
「まさか。双子だからって同じ高校に通うなんてないわ。まぁ、明後日に受験を控えているから、気を抜かないようにしなくちゃ。」
数日後、薫は第一志望校の受験に臨んだ。
「ただいま・・」
「お帰りなさい、どうだった?」
「かなり手ごたえあったよ。お姉ちゃんが家庭教師のお陰だよ。」
「そう、よかった。」
「荷造り、手伝うね。」
「ありがとう。あそこのダンボールに変圧器を入れておいてね。向こうじゃ電圧が違うから、何個か持っていかないといけなくて。」
「そうだよね。前々から疑問に思ったんだけど、お姉ちゃん英語喋れるの?」
「馬鹿だねぇ、あんた。喋れるに決まってるじゃないの!それよりも薫、受験が終わったからって気を抜くんじゃないわよ!」
「はいはい、わかってま~す!」
それからほどなくして、合格通知が薫の元に届いた。
「入学金高いなぁ・・」
「そんな事心配すんじゃねぇよ。」
「パパ、ごめんね・・」
「大丈夫だ。謝るんじゃねぇよ、薫。合格おめでとう。そういや、美輝子は?」
「ああ、お姉ちゃんならケーキ買いに行った。」
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