雪が降る中、ダブリス王国皇妃・羅姫の葬儀がしめやかに行われた。
「羅姫、我が妻よ・・」
新婚僅か数ヶ月で、腹の子とともに死んでしまった妻の棺に取り縋ったルディガーの姿は、誰から見ても痛々しかった。
(兄上、お可哀想に・・)
バルコニーからその様子を眺めていたユーリは、羅姫の冥福を静かに祈った。
「ユーリ様、陛下がお呼びです。」
「わかった。」
ドレスの裾を払うと、ユーリはルディガーの部屋へと向かった。
皇妃の喪に服す為、貴族達は皆喪服を纏っており、宮殿の中は一面漆黒の闇に包まれたかのようだった。
「陛下、ユーリ様がいらっしゃられました。」
「さがれ。」
「失礼いたします、兄上。」
「ユーリ、お前にも葬儀に参列して欲しかったのだが、重臣達が反対していたのだ。」
「いいえ、気にしてはおりませんのでお気にならさず。それよりも兄上、少し休まれた方がよろしいのでは?」
「いや、わたしはまだやらねばならぬことがある。ここにお前を呼んだのは、お前に会わせたい者がおるからだ。」
「会わせたい者?」
「入るがよい、アベル。」
「失礼いたします、陛下。」
扉が開き、胸に金の十字架を提げたアベルが部屋に入ってきた。
「アベル・・」
「ユーリ様、お久しぶりです。お元気そうでなにより。」
アベルはそう言うと、ユーリに向かって優雅に宮廷式の礼をした。
「二人きりで話すがよい。わたしは忙しいからな。」
ルディガーはさっと椅子から立ち上がると、部屋から出て行った。
「アベル、あれからどうしていた?」
「あれから色々とありましたが、今ではウテルス大聖堂の司教を務めております。」
ウテルス大聖堂は、代々ダブリス王家の結婚式や葬儀を執り行う伝統と格式ある教会であり、その司教の座に着けるものは上位貴族の子弟でも難しいといわれている。
「そうか・・それは大出世だな、おめでとう。」
「ありがとうございます。これはひとえに、ユーリ様のお蔭です。」
「わたしの?」
「ええ。あなた様の助けがなければ、わたくしは今の地位にはついておりませんでした。」
「アベル、皇妃様は今朝身罷られた。」
「存じております。あの病は、妊産婦が罹(かか)ると重症化すると聞きました。疫病の猛威は徐々に治まりつつあるものの、どうなることか・・」
アベルがそう言葉を切った時、一人の司祭が部屋に入ってきた。
「司教様、お客様です。」
「わたしに?」
「ええ、至急司教様にお会いしたいと・・」
「そうですか・・ユーリ様、失礼いたします。」
「わかった。また会おう。」
アベルはユーリに頭を下げると、部屋から出て行った。
「司教様、こちらです。」
アベルが司祭とともに廊下を歩いていると、一人の青年がアベルに気づくと頭を下げた。
「アベル様、ですね?」
「はい。あなたは?」
「初めまして、わたくしはこういう者です。」
青年はそう言うと、名刺をアベルに渡した。
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