「これは・・」
長方形の箱をユーリが開けると、そこには代々ダブリス王家に受け継がれるサファイアのネックレスが入っていた。
「そなたに、これを。」
「兄上、それは・・」
「わたしは、王位から退く。元々その座は皇太子であるお前のもの。さぁ、受け取るがよい。」
「よろしいのですか?わたしが、このネックレスを・・」
「みなもお前のことを国王にふさわしい器であると認めている。」
ユーリが周囲を見渡すと、そこには笑顔を自分に向けている重臣達の姿があった。
ユーリは姿勢をただし、優雅に礼をした後ルディガーの前に跪いた。
ルディガーは箱からネックレスを取り出すと、それを恭しくユーリの細く白い首に掛けた。
「何だと、ルディガー様が王位を退位されたと!?」
「では、次の国王はどなたなのだ!?」
「ユーリ様なのです。」
「そうか、ユーリ様ならば心配ありませんな。」
「さよう。ユーリ様は才知に長けるとともに、武術にも優れたお方。傾きかけたこの国を立て直してくださることでしょう。」
「ええ。」
ルディガーが王位から退いたことは、宮廷中に瞬く間に広がった。
そしてその知らせは、海の孤島にも届いた。
「ねぇお父様、お母様が国王様になられたら、私達自由になれるの?」
「ああ、なれるとも。」
匡惟(まさただ)はそう言うと、子どもたちに微笑んだ。
その時、クラークが部屋に入ってきた。
「今からあなた方を解放いたします!」
彼の言葉を聞いた途端、幽閉されていた者達は歓声を上げた。
「漸くお家に帰れるね。」
「ああ・・」
次第に水平線の彼方へと消えてゆく孤島を眺めながら、匡惟は娘の形見であるネックレスを握り締めた。
長い船旅を経て、匡惟達はダブリスの港へと着いた。
「お父さん、早くお母様に会いたいね。」
「ああ。」
汽車に乗り込んだ後、匡惟は流れゆく景色を眺めながらそう言って笑った。
「リヒトまでまだかかるから、今のうちに寝ておきなさい。」
「うん。」
自分の肩を枕代わりにして眠るわが子を愛おしそうに見つめながら、匡惟は今朝買った新聞に目を通した。
その一面記事には、王笏(おうしゃく)を持ち、美しいドレスを纏ったユーリの写真が載っていた。
“ユーリ皇太子、国王に即位”
(もし王となられても、ユーリ様は私達に会ってくださるだろうか?)
ユーリとの絆は、彼女が国王となった今でも変わらないと匡惟は信じている。
彼女も、そう信じていることを祈って。
「ユーリ様、どうなさいました?」
「いや・・今夜の汽車で、わたしの家族がここに来る筈なんだが・・何だか落ち着かなくて・・」
「そうでございますか。それではわたくし達はこれで。」
女官はそう言ってユーリに優雅に礼をすると、彼女の部屋から辞していった。
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