JEWEL

2012/11/23(金)15:32

美しい二人~修羅の枷~44

完結済小説:美しい二人~修羅の枷~(64)

「先生、ご無沙汰しておりますわ。」 「おや、誰かと思えば。」 吉田稔麿議員が読んでいた文庫本から顔を上げると、病室に千尋が入ってくるところだった。 「外が急に騒がしくなったかと思ったら、何でも女子高生が救急車内で出産したというじゃないか?」 「ええ。あの子は育てるつもりはないそうですわ。親になる資格がない癖に、簡単にセックスをするなんて、まるで獣ね。」 「そんなことを言うもんじゃない、マダム。彼女はある意味被害者だ。身勝手な男に騙された被害者さ。」 「それはそうかもしれませんわね。まぁ、事が公になれば、男の方だって無傷ではいられませんわ。」 そう言った千尋は、何処か嬉しそうな顔をしていた。 「まるで、君ははじめから計画していたんじゃないかい?」 「まさか、そんなことありませんわ。それよりも先生、退院したらうちの店に来てくださいな。たっぷりとサービスいたしますわ。」 千尋は吉田議員にしなだれかかった。 「ああ、わかったよ。」 「では、お待ちしておりますわ。」 千尋は吉田議員に一礼すると、病室から出て行った。 「あら、誰かと思ったら汚らわしい娼婦じゃないの。」 「あなたにそんなことを言われたくないわね、奥様。若い男のものを平気で咥えている癖に。」 「何ですって!?」 廊下で稔麿の妻・瑠美と鉢合わせした千尋がそう言って笑うと、瑠美は顔を怒りで赤く染めた。 「土方先生、お客様が来ております。」 「ああ、わかった。」 医局でカルテの整理をしていた歳三が外へと出ると、そこには香帆の姿が廊下にあった。 「どうしたんだ、香帆?」 「これから産婦人科に行くの。残念だけど、おなかの子は諦めるわ。それだけ言いにきたの。」 「そうか・・」 「これにサインして。」 「わかった。」 香帆に差し出された中絶同意書にサインした歳三は、それを彼女に手渡すと、香帆はその足で産婦人科病棟へと向かった。 「中絶手術を受けたいんですが・・」 「暫くお待ちください。」 待合室の長椅子に彼女が腰を下ろすと、隣には赤ん坊を抱きかかえた少女が座っていた。 ところどころ地毛が見えるくすんだ金髪に、濃いメイクをした少女は、ぼうっとした様子で赤ん坊をあやしていた。 香帆が声を掛けようかどうか迷っていた時、千尋が少女の下へとやってきた。 「どう、決心はついた?」 「はい・・」 「あなたはいいことをするのよ。もう過去は忘れておしまいなさい。」 少女から赤ん坊を受け取った千尋は、赤ん坊をあやしながら少女の前から立ち去っていった。 「どうぞ、処置室の方へ。」 「はい・・」 千尋と何があったのか香帆が少女に聞こうとしたとき、看護師が彼女を処置室へと案内した。 「すぐに済みますからね。」 「はい・・」 「じゃぁ、10から0まで数えてくださいね。」 「わかりました・・」 香帆は病衣に着替えて下着を脱ぎ分娩台に横たわると、医師が麻酔の注射を彼女の腕に打った。

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