悠がバッドを振りかざすと、かすかな手ごたえがあった。
「ぎゃ~!」
男の野太い悲鳴が聞こえたのと同時に、リビングの電気が点いた。
「どうした?」
「ジェファー、お前こいつと住んでたのか!」
リビングの床で、悠に金属バッドで殴られて痛みにのたうち回るマイケルの姿があった。
「マイケル、お前どうしてこんなところに?」
「そうだよ、泥棒だと思ってこれで殴っちゃったじゃないか!」
「確かに、夜中に忍び込んだのは悪かった。」
マイケルは額から脂汗を流しながら、椅子に腰掛けた。
「取り敢えず、病院へ連れて行こう。足が折れているかもしれない。」
「ええ、わかった。」
数分後、悠達のアパートの前に救急車が停まり、ジェファーと悠はマイケルとともに病院へと向かった。
「ねぇ、本当にごめん。」
「謝るな。俺も悪かったんだから・・」
救急車の中で、悠はマイケルを泥棒と勘違いして襲ったことを、何度も謝った。
病院でマイケルは足の骨を折ったが、医師や看護師には自宅で転んでしまったと説明した。
「マイケル、どうして俺達のアパートがわかった?」
「それがな、昔の友達に色々と探って貰ってな・・」
「もしかして、アパートの前うろついてたのは、あなたのお友達だったの?」
「ああ、そうだが。その事についても、色々と誤解されてしまって、済まない。」
マイケルはそう言うと、悠に頭を下げた。
「あの事件以来、お前達の消息が突然掴めなくなっていても立っても居られなくて・・」
「そうか。ちゃんと説明してくれれば俺の方から連絡をしたんだが。まぁ、こればかりは誰も責められない。マイケル、俺は今まで一度もお前に迷惑をかけたことがなかったな。だが、今回のことはお前をこんな行動に走らせてしまったのは俺の所為だと思っている。済まない・・」
「そんな事言うな、ジェファー。」
マイケルはそう言ってベッドから起き上がろうとしたが、足の痛みで呻いた。
「まだ無理するな。」
「本当に済まない・・」
病院を後にしたジェファーは溜息を吐きながら、昔マイケルと良く通ったパブへと入った。
「いらっしゃい。」
「エールを頼む。」
「わかりやした。」
スツールに彼が腰を下ろし、窓の外を見ると、雪が降り始めていた。
「ああ、降っちまいましたねぇ。この調子じゃぁ積もりそうだ。」
「そうだな・・」
「クリスマスも近いから、この店も繁盛するといいんだが。」
店主はそうぼやきながら、グラスを布巾で拭いた。
「あんたの店なら、いつでも繁盛してるだろうが?」
「そうですかねぇ。このところ、最近忙しくてねぇ。」
「最近肉体労働を始めてな。朝早くから夕方まで働いて・・クタクタになりながら毎日ベッドに倒れこんでいるのさ。」
「あっしも昔鉱山で働いてましたがねぇ、道路工事の方があっちよりもマシでさぁ。何せ落盤や爆発の危険がないんですからねぇ。」
「それもそうだな。愚痴を吐いてばかりじゃ居られないか。」
ジェファーはそう呟くと、エールを一口飲んだ。
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Last updated
2012.12.25 22:08:10
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