「ここで会うたが百年目!姉上の仇、討ち取ってくれる!」
「止せ、正義!」
「何故ですか、叔父上!?この男は姉上を殺したも同然の男ですよ!?」
「確かにおいはお前さんの姉上さぁ殺しもした。お天道様から裁きを受けられても、何も言えもはん。」
「ならば、俺がお天道様に代わってお前に裁きを下してやる!」
鯉口を切ろうとする正義の前に、叔父・権衡(けんこう)が立ちはだかった。
「叔父上、そこをお退きください!」
「ならん、正義!この人を斬ってはならん!」
「何故です!?この男の所為で、兄上と姉上は殺された!姉上だけではない、娘子軍の方や、白虎隊の者達だってこいつに殺されたも同然です!」
「だからと言って、憎しみを憎しみで返していいわけがないだろう!?お前の気持ちはもうわかる!俺とて、国を奪われた屈辱を一日足りとて忘れたことはない!だがな、怨みを引き摺りながら生きてゆくと、人の心を失ってしまうのだ!」
権衡の言葉に、正義は漸く刀を下ろした。
「正義、お前はこれから何をしたいのだ?この人を斬ることではないだろう?そうだろう?」
「俺は・・」
「なくなられたお前の兄と姉、そしてあの戦争で散った者達の御霊を鎮めるのだ。そして、奪われた会津の誇りを取り戻せ!」
「わかりました、叔父上。俺が間違っておりました。」
そう言うと正義は、権衡に平伏した。
「吉岡様、どうぞこちらへ。」
「わかりもした。」
数分後、正義は吉岡弼(よしおかたすく)から官費留学生として英国へ行かないかという話を持ち出され、即答で渡英を決断した。
「吉岡様、宜しくお頼み申す。」
「あいわかりもした。今日からわしのことを実の父上と思うてくだされ。」
吉岡は屈託のない笑みを正義に向けると、彼に右手を差し出した。
正義は少し躊躇った後、彼の手を握った。
旅立ちの日の朝、正義は吉岡とともに母達が眠る磐梯山へと向かった。
(母上、兄上、姉上・・正義は必ず会津の汚名を晴らし、戊辰の時に受けた屈辱を雪いでみせます。その日まで、俺のことを見守っていてください・・)
正義は静かに目を閉じ、母達の冥福を祈った。
「もうよかか?」
「はい。」
磐梯山を去ろうとしたとき、ふと正義は姉に呼ばれたような気がして後ろを振り返ったが、そこには誰も居なかった。
(気のせいか・・)
再び歩き出そうとした正義のすぐ近くで、姉の声が聞こえた。
“強く生きなさい、正義。”
「大田、聞こえるか?」
「う・・」
正義が目を開けると、そこには歳三とジュリアンが心配そうに自分の顔を覗き込んでいた。
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