数日後、王妃主催の御前試合が開かれることをガブリエルは知り、ヴィクトリアス指導の下、剣術の稽古に励んだ。
「かなり上達しましたね。」
「ヴィクトリアス様の教え方が良いからですわ。」
額から流れ出る汗をハンカチで拭いながら、ガブリエルはそう言ってヴィクトリアスに微笑んだ。
「御前試合まではまだ時間がありますから、余り無理をしないでください。」
「わかりました。」
「ガブリエルお嬢様、お手紙です。」
アンドレは少し不機嫌そうな様子で二人に近づくと、ガブリエルに手紙を手渡した。
「ありがとう。」
「いえ・・ではわたしはこれで失礼致します。」
アンドレはガブリエルとヴィクトリアスの姿を見たくなくて、くるりと彼らに背を向けて邸の中へと戻った。
「アンドレ、久しぶりだね。」
「ルイーゼ様、お久しぶりです。確かあなた方はイングランドへと向かったのでは?」
「ちょっと用事を思い出してね。それよりもあの手紙、ちゃんとお嬢様に渡してくれたか
い?」
「ああ。」
厨房に入ったアンドレは、じゃがいもの皮を包丁で剥き始めた。
ルイーゼはそんな彼の姿を見た後わざとらしい溜息を吐くと、木箱に入っていた魚を見た。
「ねぇ、これからどうするんだい?」
「どうするも何も、わたしはお嬢様とドルヴィエ家をお守りするだけだ。流れ者のお前達とは違って、わたしは奥様に借りがあるからな。」
「流れ者、ねぇ・・よく言ってくれるじゃないか?あたし達だって好きで各地を放浪している訳じゃないんだ。」
ルイーゼはそう言ってアンドレを睨み付けると、木箱から魚を一尾取り出してそれを包丁で捌(さば)き始めた。
彼女が鱗(うろこ)を器用に削り取っていると、裏口を誰かが激しくノックする音に気づいた。
「あんた、出てくんない?あたしは手が離せないからさ。」
「わかった。」
アンドレはじゃがいもの皮剥きを中断し、裏口へと向かった。
そこには、みずぼらしい身なりをした少女が寒さに震えながら立っていた。
「何の用だ?」
「申し訳ございません、あの・・一夜の宿をお借りできないかと・・」
「今は忙しい。」
アンドレがそう言って少女を見ると、彼女は落胆の表情を浮かべた。
「入れてあげりゃぁいいじゃないか?このままこの子が行き倒れでもしたら、お嬢様に責められるのはあたし達だよ。」
ルイーゼの言葉を聞いたアンドレは、渋々と裏口のドアの前から移動して、少女を招き入れた。
「ありがとうございます。」
彼女は大変恐縮した様子で何度もアンドレに頭を下げながら厨房に入った。
「あんた、魚は捌けるかい?」
「ええ・・漁村で暮らしていましたから。」
「そうかい。じゃぁ、あそこにある魚を捌いておくれ。夕食まで時間がないからね。あんた、名前は?」
「・・リゼットと申します。」
謎の少女・リゼットはそう言うとルイーゼ達に頭を下げ、魚を慣れた手つきで捌き始めた。
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Last updated
2013.05.18 16:32:02
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