部屋の中に居たのは、リゼットだった。
「貴様、そこで何をしている!」
ヴィクトリアスがそう言ってリゼットを睨むと、彼女は舌打ちし、隠し持っていた短剣を抜いて彼に突進してきた。
しかしヴィクトリアスの方が早かった。
彼は電光石火の動きでリゼットの手首を柄で打ち、彼女は短剣を床に落とした。
「一体何の目的でここに来た?」
「それは言えないね。」
ヴィクトリアスは剣の切っ先をリゼットの喉元に突き付けたが、彼女は平然とした様子でそう言うと、彼の顔に唾を吐きかけた。
「こいつを縛りあげろ。」
「かしこまりました。」
「何すんだよ、離せ!」
アンドレと男性使用人達に部屋から摘みだされたリゼットは、憎悪に満ちた視線をガブリエルに投げつけて来た。
思わず恐怖で身を竦めた彼女を、リゼットは嘲笑った。
「お姫様には剣は似合わないね。御前試合なんて出るのやめたら?」
「何故、あなたがそんなことを知っているの?」
「ふん、それも言えないね。」
「どうかな?いずれお前の口を割ってやろう、ありとあらゆる手を使ってな。」
ヴィクトリアスがリゼットを睨み付けると、彼女は俯いた。
「ガブリエル様、先にお休みになってください。わたしはやることがありますので。」
「は、はい・・」
「アンドレ、ガブリエル様のお傍についていてくれないか?」
「あなたに命じられなくても、わたしはそうするつもりです。」
アンドレは憮然とした表情を浮かべると、部屋から出て行った。
「お嬢様、腕に痣が・・」
「ああ、これ?剣術の稽古で出来たのね、きっと。」
夜着に着替えたガブリエルの右上腕部に青痣が出来ていることに気づいたアンドレは、思わず彼女に抱きついた。
「もうおやめ下さい、こんなことは。」
「わたしはやめないわ、アンドレ。お願いだから、わたしを止めないで。」
「わかりました、お嬢様・・」
アンドレはそう言うと、ガブリエルに頭を下げて部屋から出て行った。
ドルヴィエ邸の地下牢では、ヴィクトリアスがリゼットを天井に逆さ吊りにして彼女を鞭打っていた。
「ここに入った目的を言え!」
「言うもんか!」
「そうか、それではこれで吐く気になるか?」
少し苛立った様子の彼は、熱した鉄製の火箸を躊躇(ちゅうちょ)なくリゼットの両眼に突き刺した。
手負いの獣のような叫び声が、ドルヴィエ邸に響いた。
「わかった、言うよ・・」
「ふん、はじめからそう言えばよいものを。お前が意地を張るから、全盲となったのだから自業自得だ。」
ヴィクトリアスはそう言うと、長剣の切っ先で荒縄を天井から切り落とし、床に倒れ伏したリゼットの亜麻色の髪を掴んだ。
眼球があった箇所からの大量の出血で、彼女の顔は血まみれになっていたが、彼女は血が滲んで腫れた唇を動かし、ある事をヴィクトリアスに告げた。
「あたしを物乞いの格好をさせてここに送りこんだのは・・王妃様だ。お願いだよ、あたしを・・」
「ふ、そうか。では用はないな。」
ヴィクトリアスは長剣を床に投げ捨てると、短剣で彼女の頸動脈を切り裂いた。
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2013.05.18 16:32:55
コメント(0)
|
コメントを書く
[完結済小説:薔薇と十字架~2人の天使~] カテゴリの最新記事
もっと見る