JEWEL

2013/05/22(水)14:36

最後のひとしずく 第17話

完結済小説:最後のひとしずく(46)

「舞妓(まいこ)さんの髪って地毛で結ってるんでしょ?陽千代(はるちよ)さんの髪もそうなの?」 「いいえ、うちら芸妓は鬘(かつら)を被るんどす。舞妓が地毛で髪を結うても、途中で髪文字(かもじ)ゆうもんを付けたして結いあげるんどす。」 「それって、エクステみたいなもの?」 「まぁ、そうどすね。舞妓の髪型には色々あって、芸妓に衿替えする前の舞妓は、先笄(さっこう)ゆう髪型を結います。子どもから大人へと成長する証いうもんと思えばよろしおす。」 「へぇ、そうなんだ!勉強になったよ。」 「おおきに。」 嬉しそうに陽千代と話す孝輔の姿を見ながら、紗弥佳はシャンパンを飲んだ。 本来ならば彼はこの場に欠席している婚約者の陽斗(ひろと)に変わって自分をエスコートする立場であるというのに、彼は完全にその役目を放棄していた。 「孝輔さん、向こうに伯父様がいらしているわよ。」 「そうか、今行くよ。それじゃぁ、陽千代さん、またね。」 「へぇ・・」 「ぐずぐずしないで頂戴!」 紗弥佳は名残惜しそうに陽千代を見つめる孝輔の腕を掴むと、大股で伯父の方へと歩いていった。 「伯父様、お久しぶりです。」 「紗弥佳ちゃん、随分見ない間に大きくなったねぇ?」 紗弥佳が孝輔と共に伯父の洋輔に挨拶すると、彼は嬉しそうに目を細めながら自分の姿を見た。 「孝輔君、久しぶりに帰国した感想はどうだね?」 「長年アメリカに居たので、余り良くわかりません。少しずつ、慣れていきたいと思います。」 「そうか。それよりも孝輔君、今は一人なのか?」 「ええ。仕事が忙しくて、恋愛とは無縁です。」 「それは寂しいことだな。男は身を固めてこそ一人前になるんだ。結婚は早くした方が良い。まぁその点、紗弥佳ちゃんは心配ないだろうが。」 「嫌だわ、伯父様ったら。」 そう言って伯父の言葉を受けて笑った紗弥佳ではあったが、突然パーティーをキャンセルした陽斗に対しての怒りが収まらないでいた。 「パーティーを欠席するって、どういうことなの!?」 「ちょっと、体調が悪いんだ。」 「あなた、自分のお兄様のパーティーに出席しないつもりなの?何処までも自分勝手な人なのね!」 数時間前、陽斗からパーティーを欠席する事を聞いた紗弥佳は一方的に彼を責め立てた。 その所為で、紗弥佳はちっともパーティーを楽しめなかった。 もうそろそろ帰ろうかと思った時、彼女は一人のメイドとぶつかった。 グラスが割れる派手な音が会場に響き、周囲に居た客達が何事かと紗弥佳達の方を見た。 「何よ、危ないじゃないの!」 「申し訳ありません・・」 「どうしてくれるのよ、これ!この着物がいくらなのか、あなた知っているの!?」 「どうかなさいましたか、紗弥佳様?」 「どうしたもこうしたもないわよ!何でこんな役立たずを雇っているの、この家は!」 「申し訳ありません、紗弥佳様。わたくしに免じてこの者をどうか許してやってはいただけませんでしょうか?」 「着物を弁償してくれるなら、許してあげるわ。2000万、さっさと払ってちょうだい!」 「そんな大金をすぐにはご用意できません。」 「じゃぁ、訴えてやるわ!」 紗弥佳が大声で明田とメイドを恫喝(どうかつ)していると、陽千代がすっとメイドの方へと歩いていくところを孝輔は見た。 にほんブログ村

続きを読む

このブログでよく読まれている記事

もっと見る

総合記事ランキング

もっと見る