私物が入った段ボール箱を抱えながら、孝輔は行くあてもなく街を彷徨(さまよ)った。
これから何処に行けばいいのだろう。
家は完全にマスコミに包囲されているし、親族もアテにならない。
先の事を考えるよりも、今は入院している弟・陽斗(ひろと)がどうしているのか気になった孝輔は、彼が入院している病院へと向かった。
タクシーに揺られて数十分後、孝輔が病院へと向かうと、駐車場辺りに野次馬が出来ていることに気づいた彼は、嫌な予感がしてタクシーから降りた。
「どうしたんですか?」
「さっきね、屋上から入院している患者さんが自殺したんだってさ。何でも、この病院から追い出されるとかなんとか・・」
「すいません、通してください。」
嫌な予感が当たっていませんように―そう思いながら、孝輔は野次馬を押し退けながら前へと進んだ。
だが、そこにはアスファルトの地面に叩きつけられ、絶命している弟の姿があった。
「陽斗・・」
自分だけならまだしも、弟が自ら命を絶つ理由が何処にあるのか。
父親が犯した罪の所為で、息子である自分達が社会的に制裁され、抹殺されなければならないのか。
そんな事があってはならない、それなのに―
「しっかりしろ、陽斗!」
孝輔は陽斗が死んでいるとわかっていながら、彼の遺体に取り縋り、必死に彼に声を掛け続けた。
「どうして、こんなことに!お願いだ、目を開けてくれ!お願いだから!」
誰かが病院スタッフを呼んだらしく、医師と看護師が陽斗の遺体から孝輔を引きはがした。
「離せ、離せよ~!」
一方、警察の取り調べ室では、敏明は完全黙秘を貫いていた。
「黙っていないでハッキリ言ったらどうだ?」
「・・わたしは何もしていない、これは陰謀だ!」
「ふざけるな、あんたが殺人を犯したという証拠はちゃんと残っているんだぞ!いつまでとぼけるつもりだ!」
「一体誰だ、わたしを殺人犯に仕立て上げたのは!?そいつを今すぐここに連れて来い、八つ裂きにしてやる!」
「いい加減にしろ!」
苛々がピークに達した刑事は、そう言うと敏明の頬を平手で殴った。
「わたしにこんな事をしてタダで済むと思っているのか!?」
「黙れ!」
その時、取調室のドアが開いて、一人の刑事が敏明の取り調べをしている刑事の耳に何かを囁いた。
「どうした、何かあったのか?」
「よぉく聞け。さっき病院で、入院していたお前の息子が死んだ。何でも病院側から退去を迫られて、自殺したそうだ。」
「陽斗が、自殺だと・・そんな事はない!わたしの息子が、そんな下らない理由で自殺なんかする筈がない!」
「下らない理由?元はといえばあんたの身勝手さ故にお前の息子達は今生き地獄を味わっているんだ、それを少しは自覚したらどうだ!?」
「そんな・・陽斗が・・」
他人の命に手をかけてまで、その命を敏明が救った陽斗は、父を責めずに自ら命を絶った。
数日後、孝輔が陽斗の遺書を携(たずさ)え敏明の面会に来た。
「元気だったか、孝輔?」
「よくもそんな事が平気で言えるね?こっちはあんたの所為で大変だっていうのに。」
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