(良い天気やなぁ・・)
佐々木敏明の自殺がマスコミによって大きく取り上げられたその日の朝、陽千代は京都市内にある霊園へと向かっていた。
今まで両親の墓参りをしておらず、彼らの命を奪った犯人が自殺し、無事事件が解決したのを区切りに、陽千代は彼らが眠る墓へと初めて訪れたのだった。
「お父さん、お母さん、今まで来んと堪忍え。」
墓の前で手を合わせ、両親に向かって線香を上げた陽千代は、そう言って彼らに語りかけた。
「うちのことは何も心配せんでええよ。うちはもう、一人やないから。」
墓参りを終えた陽千代が坂を下っていると、入口の方から坂を上がって来る一人の青年の姿を見た。
何処か見覚えがあるような気がしたのだが、何故か思い出せない。
陽千代はそっと青年に会釈すると、彼も会釈を返してくれた。
二人が擦れ違おうとした時、青年が突然陽千代の手を掴んで自分の方へと引き寄せた。
「やっと見つけた・・」
耳元で陽千代にそう囁いた青年は、口端を上げた。
「あなたは・・」
「思い出してくれた?」
青年―佐々木孝輔は、そう言うと陽千代を睨んだ。
「どうして、うちが此処に居ると・・」
「君なら、此処に来ると思っていたんだ。」
孝輔は陽千代の腹に深々とナイフを突き刺した。
「君の所為で、僕達一家は滅茶苦茶だ。父と弟が自殺したのは、全部君と君の両親の所為だ!」
「そんなん、逆恨みもええところどす・・うちは何も・・」
「してないって言えるの?人の人生を滅茶苦茶にしておいて、良く言うよね!」
孝輔は憎しみに歪んだ顔で、陽千代を睨みつけた。
「おい、そこで何してるんや!」
管理人と思しき初老の男性が二人の元へと駆け寄ってきた。
孝輔は舌打ちすると、陽千代の腹からナイフを引き抜いた。
「あんた、しっかりせぇ!」
管理人に身体を揺さ振られながら、陽千代は薄れゆく意識の中、自分に向かって微笑む亡き両親の姿を見た。
(お父さん、お母さん・・)
もう自分の苦しみも、悲しみも終わった。
あとはもう、彼らの元へと旅立つだけだ―
陽千代がそっと目を開くと、そこには晴れ渡り澄み切った冬の空が広がっていた。
「お前の所為だ、お前が悪いんだ~!」
誰かが怒鳴る声を聞きながら、陽千代は再び目を閉じた。
数ヶ月後、孝輔は精神病院の閉鎖病棟の中で、ブツブツと独りごとを言っていた。
「あいつが悪いんだ・・全て、あいつの所為だ・・」
孝輔は苛立つ気持ちを抑える為に、強く爪を噛んだ。
END
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