国を二分する壮絶な内戦は、夥しい死者を出し、終結した。
「あれは・・」
「エリス様だ・・」
宮殿までの大通りをエリスが兵を率いて王都を凱旋していると、市民達が彼女達を歓迎した。
「エリス様、万歳!」
どこからかそんな声が聞こえたかと思うと、それはいつしか大通り中に広がっていった。
「エリス様、漸く帰ってきましたね。」
「あぁ・・」
エリスはそう言うと、瓦礫の山と化した神殿を見た。
戦いに勝っても、失われた命は二度と戻ってこない。
そう、彼らの犠牲の上にこの戦いの勝利があるのだ。
エリスはそっと目を閉じると、セシャンと子ども達の笑顔が脳裏に浮かんだ。
彼らはもう、自分の手が届かない場所へと逝ってしまった。
「エリス様、どうされました?」
「いや、なんでもない。」
エリスは涙を拭いながら、宮殿へと入った。
そこは、内戦前と変わらぬ美しい内装が保たれていた。
「ここに戻ってきましたね。」
「ああ・・」
エリスはかつてシンが使っていた部屋へと入った。
そこには、生前シンが愛用していた調度品などがそのまま残されていた。
(ユリノ様、あなた様を手にかけてしまったわたしを、許して下さい・・)
親友であったシンを手にかけてしまった罪の意識を、エリスは未だに感じていた。
“エリス、もういいのよ。わたしはあなたを責めてはいないわ。”
どこからかシンの声が聞こえてきたので、エリスは慌てて彼女の姿を探したが、どこにもいなかった。
『お願い、わたしの代わりに、ね・・』
シンが自分に言い残した最期の言葉を、エリスは突然思い出した。
今感傷に浸っている暇などない。
内戦で傷ついたこの国を、自分が変えなくてはいけないのだ。
(ユリノ様、見ていてください。わたしが必ず、この国を変えてみせますから!)
エリスは俯いていた顔を上げると、部屋から出て行った。
「エリス様、そろそろお時間です。」
「わかった。」
内戦終結後から数ヶ月の歳月が経ち、正装姿のエリスはそう女官に向かって言うと、椅子から立ち上がった。
この日、エリスは女王としてアルディン帝国を治めることとなり、数時間前に戴冠式を終えたばかりだった。
エリスはドレスの裾を摘まんで部屋から出て行った。
「エリス様だ!」
「エリス様がお見えになったぞ!」
宮殿前広場に新女王誕生の瞬間を見届ける為に押し寄せた群衆は、エリスがバルコニーから姿を現したのを見て一斉に色めきたった。
「エリス様、万歳!」
「女王様、万歳!」
エリスは群衆に手を振りながら、彼らに微笑んだ。
彼女は女王として善政を敷き、独身を貫いたままその生涯を終えた。
エリス亡き後、女王の功績を讃(たた)え建立した碑には、こんな言葉が刻まれていた。
“タシャンの女王・エリス。民衆を優しき光で照らす暁の女神”
―完―
にほんブログ村