徳川家茂が死去し、第15代将軍として一橋慶喜が就任する事になった。
「上様、おめでとうござりまする。」
「かたじけないな、容保。」
慶喜は、そういうと上座で自分に頭を垂れている容保を見た。
「そなたは、帝からのご信頼が厚いときく。これから、わたしの為に働いてくれよ?」
「ははっ!」
二条城を辞した容保の近くに控えていた修理が浮かない顔をしていることに気づいた彼は、修理にこう尋ねた。
「上様について、何か思うところがあるのか、修理?」
「いえ・・上様は、殿のご帰国をどう考えていらっしゃるのか・・」
「国許に帰国するのは、まだ先じゃ。これからは上様と主上をお守りせねばならぬ。」
「そうですね・・」
そう言いながらも、修理は一抹の不安を抱いていた。
「龍馬さん、あなたが今考えている事は何です?」
「実はのう・・これからも将軍一人が政権を握っとると、桂さんの言うようにこん国が滅びしてしまうがじゃ。そうならんよう、帝に政権を返した方がええと・・」
「即ち、大政奉還を将軍に要求すると?」
「そうじゃ。けんど、今将軍にそう言うても、あん一橋はわしの言うことを聞かんじゃろう。」
「ならば、武力で思い知らせたほうがいい。」
「それはいかん。戦は民を疲弊させるがじゃ。2年前の戦で京が焼け野原になったこと、もう忘れたがかえ?」
痛いところを龍馬に突かれ、桂は黙り込んだ。
「あの戦で、我ら長州は賊軍とされた。どれもこれも、全ては会津の所為だ!」
「逆恨みもいいところぜよ、桂さん。」
「よく呑気に構えていられるな、龍馬さん。会津が雇った新選組は、池田屋で君の同志達を殺したじゃないか?彼らが憎くないのか?」
「そんなことをいつも思うた時点で、疲れるだけぜよ。わしゃ、無益な争いは好かん。」
龍馬はそう言ってあくびをすると、鼻くそをほじくった。
「桂さん、お客様です。」
「誰だい?」
「新選組の、伊東様です。」
「そうか、通してくれ。」
桂は部屋に入ってきた伊東を笑顔で出迎えた。
「まさか、敵同士である薩摩と長州が手を結ぶとは、思いもよらなかったよ。」
「薩長同盟を締結させたのは、わたしや西郷さんの力だけではありません。そこにいる坂本龍馬が、わたし達に同盟を締結する決意をさせてくれたんです。」
「ほう・・」
伊東の視線が、桂から龍馬へと移った。
「わしゃぁ、何にもしとらんき。ただ、二人に協力しただけじゃぁ。」
「ご謙遜を。君の事は色々と噂に聞いているよ。」
「伊東さん、と言うたかえ?おまん新選組の者やちゅうに、桂さんと会うてるのはどういてじゃ?」
「彼とは気が合うのだよ。それに、同じ志を持った仲間でもある。」
「それじゃぁおまんも、幕府を倒すべきやと?」
「・・どうやら、あなたには嘘は通用しないようだね。」
伊東はフッと唇を歪ませて笑うと、龍馬を見た。
「僕が考える理想の国家は、天子様がこの日の本を治めること。その目的を果たす為には、上様は邪魔な存在でしかないんだよ。」
彼の大胆な告白に、龍馬は驚愕の余り目を丸くした。
「こりゃぁ、いかんぜよ。伊東さん、新選組の者がそんな事を言うてはいかん。」
「僕は敵に本性を簡単には見せないよ。まぁ、一人だけ僕の本性に気づいた者がいるけれどね・・」
伊東はそう言うと、閉じていた扇子を開いた。
にほんブログ村