1867年10月14日、15代将軍・徳川慶喜は、政権を明治天皇へと奏上した。
つまり、今まで徳川家が握っていた江戸幕府の政権を、天皇へと戻したのである。
この出来事は、“大政奉還”と呼ばれた。
「上様が天子様に政権をお返しになられただと!?」
「それじゃぁ、俺達はどうなるんだ!」
「落ち着け、まだ新選組がなくなったわけじゃねぇ!」
大政奉還により自分達の立場が悪くなる、終いには新選組がなくなってしまうのではないかという不安に駆られた隊士達は、そう口々に言いながら近藤や歳三に詰め寄った。
「上様が政権を天子様にお返しになったからといって、天子様が今すぐにこの国を治めるわけがねぇ。」
「そうだな・・」
「だが、伊東がどう動くのか・・」
双葉は、ふと平助の身を案じた。
(藤堂先生、どうしていんだべか・・)
「副長、只今戻りました。」
「斎藤か。」
「副長、なじょして斎藤先生がこちらに?」
「実はな、こいつは間諜として伊東の元に潜入させたのさ。連絡役の隊士も潜入させたうえで、伊東の動きがこちらにもわかるようにさせたんだ。」
「歳・・」
「斎藤、伊東は何を企んでいやがる?」
「実は、伊東は近藤局長の暗殺を企てているようなのです。」
「何だと!?」
その場に一瞬、緊張が走った。
「歳、どうする?」
「どうするも何も、伊東の奴をこのままのさばらせておける訳がねぇだろ?」
「じゃぁ・・」
「奴を始末する。」
1867年11月15日、近江屋。
「今夜は冷えるのう。」
「まぁたくしゃみかえ、龍馬さん?京に居るから、寒さに強いと思うとった。」
「わしゃぁ南国の生まれじゃき、こん寒さは苦手じゃぁ。」
坂本龍馬と中岡慎太郎がそう言いながら部屋で寛いでいると、階下で人が争う音と、派手な物音がした。
「ほえるな!」
「坂本龍馬、覚悟!」
二階へと駆けあがって来た襲撃者に応戦しようと龍馬は拳銃を構え発砲したが、生憎弾切れだった。
彼は舌打ちして刀の鯉口を切ろうとしたが、その前に敵の刃が彼の脳髄に食い込んだ。
「慎太郎・・」
「龍馬・・龍馬・・」
血の海と化した部屋の中で、慎太郎は畳の上を這いながら龍馬の元へと向かった。
「わしゃぁ、脳をやられたぜよ・・」
坂本龍馬と中岡慎太郎は、何者かによって近江屋で襲撃され、暗殺された。
大政奉還という偉業を成し遂げた男は、33年という短い生涯を終えた。
その数日後―1867年11月18日。
油小路に於いて、伊東甲子太郎は新選組の大石鍬次郎らによって暗殺され、その遺体は路上に放置された。
「先生、どうしてこんな・・」
「許さぬ、新選組!」
伊東の遺体を引き取りに御陵衛士達が油小路にやって来るのを待ち構えていた新選組の隊士達が路地から飛び出ると、辺りは男達の怒号と激しい剣戟の音に包まれた。
「平助、逃げろ!」
「新八つぁん・・」
次々と目の前で仲間が倒れて行く中、藤堂平助は隊士の一人に斬られ、息絶えた。
「平助・・」
「ごめんね・・俺が・・」
平助は最期にそう言って微笑むと、ゆっくりと目を閉じた。
坂本龍馬暗殺、油小路事件という二つの事件を挟んで、慶応3年は幕を閉じ、新年を迎えることとなった。
1868年1月3日、鳥羽・伏見に於いて戊辰戦争が勃発。
「放て、撃てぇ~!」
「くそ、このままじゃ皆殺しにされちまう!」
最新鋭の武器を用いる約五千名の新政府軍を前に、数で勝っている筈の約一万五千名の旧幕府軍は、惨敗を喫した。
銃弾を浴びて倒れているのは、会津藩兵だけだった。
「錦の御旗をあげっとか~!」
炎の中で、官軍を示す錦の御旗が揚がった。
この瞬間、会津藩は、「逆賊」となった。
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