幕末から現代へと戻って来て、数ヶ月が経った。
双葉がどんなに幕末で体験した出来事を話しても、医師は、“事故によるショックで、記憶障害が起きてるだけだ”の一点張りで、誰も信じてくれなかった。
だが確かに、彼女は幕末で生き、故郷を守る為に戦った。
それを、ただの夢として終わらせたくはなかった。
「双葉、お前ぇにいい知らせがあんだ。」
「母ちゃん、そんなに嬉しそうな顔して、なじょしたんだ?」
「実はなぁ、会津に戻れることになったんだ!」
「会津に!?」
「父ちゃんが昔居た会社の上司さんがいろんな所に掛け合って来て、父ちゃんの再就職先が決まったんだ。」
「やっと、会津に帰れんだな。」
「長かったなぁ・・」
良子と抱き合いながら、双葉は嬉しさの余り涙を流した。
「帰って来たな、やっと・・」
「東京も良かったけんじょ、やっぱり会津が一番だ。」
「んだなし。」
磐梯山を眺めながら、双葉と良子は漸く故郷へと戻ってきたという喜びを噛み締めていた。
「荷物、片付けんぞ。」
「わがった。」
引っ越し会社のロゴマークが入った段ボール箱を双葉が下ろそうとした時、彼女はバランスを崩して転倒しそうになった。
そこへ、近くを自転車で通りかかった一人の高校生が咄嗟に彼女の身体を支えた。
「さすけねぇか?」
「さすけねぇ。ありがとなし。」
双葉は自分を助けてくれた高校生に礼を言おうと彼の顔を見ると、そこには幕末の京で共に過ごしたゆきが居た。
「ゆき様・・?」
「まさか・・双葉様なのがし?」
「わだすのこと、覚えてくれてたのか?」
「双葉様は、わだすにとって一番の親友だ!忘れる筈がねぇ!」
高校生―雪は、そう叫ぶと双葉を抱き締めた。
「あれから、どうなったんだ?」
「会津は敗れて、副長は函館で死んだ。だけんじょ、もう会津は逆賊とは呼ばれてねぇ。」
「よがった・・」
ゆきと猪苗代湖の湖畔を歩きながら、双葉はそう言って溜息を吐いた。
「まるで、ゆき様と過ごした日々の事が、夢みてぇだ・・だけんじょ、わだすには夢じゃねぇ。」
「それはわだすも同じだ。こうして双葉様に再び会えたことは、嬉しい。」
「また、会えんべ?」
「当たり前だ。会津に居る限り、わだすは居なくならねぇよ!」
「よがった。」
双葉はゆきに微笑むと、彼にあるものを見せた。
それはまだ新選組が幸せだった頃―西本願寺前で撮った集合写真だった。
「やっぱり夢じゃねぇ・・これを見ると、いつでもみんなに会えんな。」
「んだなし。メール、送ってくなんしょ。まだ使い方がわからねぇ。」
「わがった。」
―完―
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