「久しぶりね、何年振りかな?」
「さぁな。それよりも、彼氏待たせちゃ悪いだろ?」
裕美が知幸に何か話したそうだったが、彼は彼女にデジカメを渡すと、その場から逃げるように去っていった。
彼女の隣に居た男性を見て少し落ち込んだが、いつまでも昔の事を引き摺るなんて男らしくないと、知幸はそう思いながら電車に乗り込んだ。
アパートの部屋に戻ると、リビングに置いてあるコードレスフォンの留守番電話のランプが赤く点滅していた。
『13件のメッセージがあります。』
コンビニで買ってきたポテトチップスをテーブルに置きながらメッセージを再生した知幸だったが、メッセージはどれも実家の母親からだった。
『あんた、ちゃんとしてるの?』
『いつもコンビニ弁当ばかりじゃ、栄養つかないわよ!』
『今度高校の同窓会あるんでしょ、行かないの!?』
どうして母親という生き物は、とてつもなくお節介で口煩いものなのだろうか。
今は仕事が忙しくて里帰りどころではないのに。
ポテトチップスを知幸が食べていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。
「どちら様ですか?」
こんな時間に一体誰だろうと思いながら知幸がドアスコープから外を覗くと、ドアの前には裕美が立っていた。
「知君、話がしたいの。」
「話って何だよ?お前、彼氏はどうしたんだ?デートじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんだけど・・急に彼、仕事が入っちゃって・・」
「何だよ、話って?」
知幸がドアを開けると、裕美は玄関先で靴を脱いで部屋に上がって来た。
「おい、勝手に入るなよ!」
「随分と片付いてるんだね?」
「話って何だよ?」
「知君、今付き合ってる人は居ないの?」
「居ねぇよ。お前には関係のないことだろう?」
「そう・・ねぇ、わたしともう一度、やり直さない?」
「俺、もうお前なんか好きじゃねぇから。お前彼氏持ちの癖に、よくそんな事が言えるよな?」
「酷い・・少しはわたしの話を聞いてもいいじゃない!」
「はぁ?勝手に人の家に上がり込んで来て、やり直そうって言われて、ハイわかりましたで済むかよ?」
「じゃぁこのまま帰れって言うの?」
「ああ、俺はもうお前の顔なんて見たくないんだよ。」
知幸は少し苛立ったようにこたつで寛ごうとする裕美を無理矢理立たせると、彼女を玄関先へと追いやった。
「もう帰れ。」
「酷い人、送ってくれてもいいじゃない!」
裕美は泣きながらそう叫ぶと、ドアを力強く閉めて廊下を走っていった。
「ったく、何だよ・・」
知幸はドアの鍵を閉めると、再びこたつの中へと潜り込んだ。
翌朝、外で小鳥が囀る声で目覚めた知幸は、こたつの上に散らばっているポテトチップスの食べカスとビールの空き缶をゴミ箱に捨てながら、シャワーを浴びた。
濡れた髪を彼がドライヤーで乾かしていると、玄関のチャイムが鳴った。
(今度は一体誰だよ?)
ドライヤーで髪を乾かすのを止めて、知幸が浴室から出て玄関先へと向かうと、ドアの前にはボストンバッグを提げた母親が立っていた。
「知幸、居るんでしょ?」
「何だよお袋、来るなら来るって連絡しろよ!」
「どうせ連絡しても、来るなって言うんでしょ!」
知幸の母、和子はそう言うと、部屋に上がってコートとマフラーを脱いだ。
「あんた、ちゃんと食事取ってるの?」
「うるさいなぁ、今作ろうとしてたんだよ!」
知幸がそう言って母親を睨んだ時、こたつの上に置いてあった携帯が鳴った。
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