歌舞伎町にある雑居ビルで火災が発生し、緊急救命室に次々と負傷者が運び込まれ、院内は瞬く間に戦場と化した。
「千尋ちゃん、あっちの患者さんを診て!」
「わかりました!」
総司の指示を受け、千尋は足に火傷を負った少女の元へと駆け寄った。
「大丈夫だよ、もうすぐ先生来るからね。」
「岡崎君、ここはわたしがするから、君は患者さんのご家族についてやりなさい。」
「わかりました。」
真島教授に頭を下げると、千尋は患者達の家族が集まっているレクリエーションルームへと向かった。
「ねぇ、うちの息子は大丈夫なんですか?」
「うちの子は?」
「助かるんですよね!?」
「皆さん、落ち着いて下さい。皆さんのご家族は必ず助かります。その為にわたし達スタッフが最善を尽くしています。どうか、落ち着いてください。」
「どうして、こんなことに・・」
患者達の家族の一人である女性は、そう言って泣き崩れた。
数時間後、千尋がICUの前に向かうと、そこには総司の姿があった。
ガラス窓の向こうには、たまたま火災が起きた雑居ビルにあるクラブで遊んでいた19歳の少年がベッドに寝かせられていた。
彼は全身の70%に火傷を負い、意識不明の重体だった。
「先輩、この子は・・」
「先生からは、もう駄目かもしれないって言われたよ・・運ばれて来た時、心肺停止状態だったからね。しかも、その状態が発見されるまで30分以上も経ってたから・・」
「そんな・・」
「この子のご両親には、僕が説明するよ。君には酷だろうけど。」
「お願いします・・」
数分後、泣き叫ぶ少年の母親の声が、レクリエーションルームから聞こえた。
「ねぇ千尋ちゃん、これから飲みに行かない?」
「はい・・」
病院を出た千尋と総司は、都内にあるバーへと向かった。
「何でこんな時に飲むんだって、患者さんのご家族からは非難されるだろうけど、飲まないとやってられないよ。」
「そうですよね・・辛い事があると・・」
「昔ね、知り合いになったドクターがこう言ってたよ。“患者さんやそのご家族の気持ちに寄り添い過ぎると、こっちまでおかしくなってしまう”ってね・・患者さん達の気持ちに寄り添う事も大切だけど、自分を大事にしないとちゃんと仕事が出来ないよ?」
「肝に銘じます。」
「そう、じゃぁここは僕の奢りで!」
総司はそう言ってニッコリと千尋に微笑むと、バーテンダーにカクテルを注文した。
「それじゃぁ、僕こっちだから。」
「先輩、今日はご馳走様でした。」
「いいんだよ、お礼なんて。それじゃぁ、また明日ね!」
駅前で総司と別れた千尋が改札口へと向かおうとした時、誰かが彼の腕を掴んだ。
「やっと捕まえた。」
「東さん・・」
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Last updated
2013.09.21 14:01:30
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