華凛が突然職場から失踪してから数ヶ月が過ぎたが、警察は未だに彼の消息を掴んでいなかった。
東京の警視庁にある取調室では、華凛失踪時の唯一の目撃者である柏木満の取り調べが連日行われていた。
「だから、僕はやっていませんって!」
「お前と被害者は、事件前から仲が悪かったことはわかってんだ。いい加減、白状したらどうだ!」
「僕は彼を殺してなどいません!どうして信じてくれないんですか!?」
柏木満は半ベソをかきながら、必死に真鍋達に対して身の潔白を訴えた。
だが、彼の自宅を真鍋達が家宅捜索すると、柏木の妻が使っていたドレッサーの引き出しから、華凛のネックレスが見つかった。
「これに見覚えは?」
「それは・・」
「あんたの奥さんが使ってたドレッサーから出て来たんだよ。被害者のネックレスが、何でお前の家にあるんだ?」
「それは・・その・・」
「このネックレスの鎖から、あんたの指紋が出た。詳しく俺達にも解るように説明して貰おうか?」
真鍋達に詰め寄られた柏木は、観念して華凛が失踪した当日に起きた事を話した。
その日、来年春に嵐山にオープンする予定の美術館のコンペディションは、華凛が所属する設計一課が勝った。
「畜生、また一課に負けるなんて・・」
「すいません・・」
「ったく、お前は本当に役立たずだな、柏木!」
上司から激しく罵倒され、意気消沈した様子で会社を出た柏木は、正面玄関前で華凛と会った。
「柏木さん・・」
「お前さぁ、あんまり調子に乗るなよ?」
「わたしは調子に乗ってなんか・・」
「お前の澄ました顔が、ムカつくんだよ!」
ムシャクシャした気持ちを柏木は思わず、華凛にぶつけてしまった。
彼は華凛の胸倉を掴むと、彼を乱暴に突き飛ばした。
その時、華凛が首に提げていたネックレスが鎖ごとひきちぎられた。
「いい物持ってんじゃん。」
「返してください、それは・・」
「うるせぇ、お前は黙ってろ!」
柏木はそう華凛に怒鳴って地面に蹲った彼の顔を蹴った。
彼は近くの自販機に後頭部を強打し、気絶した。
「あいつを殺してしまったんじゃないかって、急に怖くなってその場から逃げました。」
「それだけか?」
「ええ。ネックレスは僕が持っていれば安全だろうと思って、現場から持ち去りました。」
「柏木さん、あんた会社の金を横領してたんだろ?その罪を、被害者に擦り付けようとしてたんじゃないんですか?」
「違う、横領は上司が・・井畑課長がやっていたことだ!ちゃんと彼が横領したという証拠が自宅にある!嘘じゃない!」
「その言葉、信じていいんですね?」
「お願いです・・早く僕を家に、妻の元へと返してください!」
真鍋は柏木を一度信じることにし、彼の自宅へと向かった。
「先輩、ありました!」
「でかした!」
真鍋は柏木の自宅から井畑課長が会社の金を横領していた証拠を発見し、柏木を釈放した。
「あなたを疑ってしまって、申し訳ありませんでした。」
「いえ・・僕は、正英さんに嫉妬していたんです。彼には、建築家としての才能があった。それに、同僚や上司との関係も良くて・・馬鹿ですよね、こんなつまらない事で彼に暴力を振るって、憂さを晴らそうだなんて・・」
柏木はそう呟いて溜息を吐くと、俯いた。
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