JEWEL

2013/10/17(木)10:37

空蝉 最終章-26

完結済小説:紅き月の標(221)

故郷を捨て、上京した淳子は、職場を転々としながら安アパートで一人暮らしをしていた。 家具も何もないボロイ部屋でも、もう父親や継母に罵倒されたり、暴力を振るわれたりしない生活が送れると思うと、淳子にとってそこは楽園のような場所だった。 スーパーのレジ打ち、ファストフード店、ファミリーレストランのホールスタッフ・・淳子は 求人情報誌でアルバイトを募集している店を見つけると、片っ端から電話を掛けた。 だが、未成年である彼女をすぐに雇ってくれるところはなく、東京での生活は困窮を極め、安アパートの家賃を二ヶ月分も滞納した所為で、彼女はそこから追い出されてしまった。 「うちはボランティアじゃないんだよ!」 仕事も、住む家も失った淳子は、アパートを追い出された日の夜、駅の構内で段ボールを敷いて新聞紙に包まって寝た。 そんな生活を何日も続けていたある日のこと、彼女が公園のごみ箱で残飯を漁っていると、一人の男に声を掛けられた。 「若い姉ちゃんが、そんな事するんじゃねぇ。俺の店に来な。そしたら、こんな生活とはおさらばだ。」 淳子に声を掛けて来た男の名は石橋といって、都内で何軒か風俗店を経営していた。 衣食住が完全に保障された石橋の店で、淳子は働き始めた。 その店は客と従業員の女が下着姿になり、客の男がビキニ姿の女からマッサージを受けるというシステムだった。 「この仕事、初めてか?」 「はい・・」 「客から何を言われても笑顔でいろ。少しでもビビったら、相手が調子に乗るだけだ。」 「わかりました・・」 その店で客にマッサージをした時、淳子は緊張で身体が震えたが、同じ事を何度も繰り返している内に、慣れて来た。 「淳子、話がある。」 「何でしょうか?」 「お前、この店辞めろ。お前みてぇな若い女に、この仕事は長続きしねぇよ。」 「わたし、ここから追い出されても行くあてがないんです!」 「そんなこたぁ、お前を公園で見つけた時からわかっていたよ。これは、今までここで働いて来たお前への特別ボーナスと、退職金だ。夜の世界は、お前が思っているような甘い世界じゃねぇ。食い物にされる前に、昼の世界に戻るんだな。」 石橋は優しい言葉を淳子に掛けると、札束が入った分厚い封筒を彼女に手渡した。 石橋の店を辞めた淳子は、退職金でアパートを借り、バイトを幾つもこなしながら、何とか家賃と光熱費が払える生活を送っていた。 そんな中、淳子はバイト先の同僚から臨時のバイトを頼まれ、キャバクラで一晩だけ働くことになった。 「いらっしゃいませ。」 「君可愛いね、幾つ?」 緊張で震える淳子の手を優しく握ってくれたのは、司法試験に合格し、新米弁護士として働き始めた慎治だった。 彼と何回かデートをした後、淳子は慎治からポロポーズされた。 「本当に、わたしみたいな女でいいの?」 「ああ、構わないよ。」 淳子は慎治と結婚し、二男一女の子宝に恵まれた。 しかし母親不在の家庭で育った彼女は、娘とどう接したらいいのかわからず、 気づいた時には娘との関係は修復不可能なものとなっていた。 にほんブログ村

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