『まぁ、素敵なドレスね!トシ、本当に有難う!』
『少し時間がかかってしまいました。』
『いいのよ、あなたも色々と忙しかったんでしょう?』
『ええ、まぁ・・』
『トシ、あなた何処で洋裁を学んだの?』
『知り合いの方から少し教えて貰いました。後は独学です。』
『あなた、本格的に洋裁を勉強した方がいいんじゃない?あなたの腕なら、きっと一流のデザイナーになれると思うわ!』
『そんな・・』
マクレーン家のリビングで利尋とジェーンがそんな話をしていると、そこへジェーンの娘・ステファニーがやって来た。
『ママ、ドレスは出来たの?』
『ええ、出来たわよ。』
ジェーンがドレスを見せると、ステファニーは嬉しそうに瞳を輝かせた。
『素敵!トシ、有難う!』
『気に入ってくれてよかった。』
『ねぇママ、これ来年のハロウィンに着てもいい?』
『いいわよ。トシ、これはわたしからのお礼として受け取って。』
ジェーンはそう言ってソファから立ち上がると、利尋に封筒を手渡した。
『いえ、そんな・・受け取れません。』
『無理をして作って貰ったのだから、ちゃんとお代は払わなきゃ。お願い、受け取って。』
『ありがとうございます。ではわたしはこれで失礼致します、奥様。』
『また来てね!』
数日後、ステファニーが通う幼稚園で発表会が行われ、彼女が着ている白雪姫のドレスが、保護者達の注目を集めた。
『可愛いドレスだわ、誰が作ったのかしら?』
『ステファニーの可愛さが引き立っているわね。』
発表会の後、ジェーンはジョーンズ家を訪れた。
『トシのドレス、みんなから好評だったわ。あの子、独学で洋裁を学んだんですって。』
『そうなの?てっきり学校に通っているものだと思っていたわ。』
『わたし、あの子に本格的に洋裁を勉強したらどうかって言ったのよ。でもあの子、何かを迷っているみたい。きっと色々と事情があるんでしょうね。』
『そうみたいね・・』
帰宅した利尋は、裁縫室で発表会のドレスのデザイン画を眺めていた。
もっと洋裁を学びたい―そんな事を彼が思っていると、信子が裁縫室に入ってきた。
「トシちゃん、今いいかしら?」
「はい・・」
「ねぇトシちゃん、あなた洋裁学校に行って、本格的に洋裁を勉強したらどうかしら?」
「信子さん・・」
「あなたは、洋裁を本格的に学びたいのでしょう?」
信子はそう言うと、利尋にある物を渡した。
それは、神戸にある洋裁学校の入学案内書だった。
「一度これに目を通してみて。」
「でも、僕・・」
「あなたの才能は、これから伸びるものだとわたしは思っているの。一度興味を持った事を、とことん究めたらどうかしら?」
信子は利尋の肩を叩くと、裁縫室から出て行った。
彼女が出て行った後、利尋は洋裁学校の入学案内書に目を通した。
その学校では、デザイナーとなる為の専門的な知識や技術を教えており、授業内容も充実していた。
「お父様、お母様、お話があります。」
「何だ、そんな真剣な顔をして?」
「僕、神戸の洋裁学校に入学して、本格的に洋裁を勉強したいんです。」
その日の夜、ダイニングで利尋はそう両親に話を切りだすと、彼らに洋裁学校の入学案内書を見せた。
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