朝食の後、利尋達新入生は講堂に集められた。
数分後、寮母の望と二年の校章をつけた二人の女子生徒が彼らの前に現れた。
「今から彼女達が校内を案内するから、はぐれないように彼女達についてきてくださいね。」
その後、新入生達は上級生達とともに校内をまわった。
「ここがお茶室や。」
「お茶室・・あのう、ここでは茶道の授業があるんですか?」
「何やのあんた、そんなこと知らんでここに来たん?」
利尋の言葉を聞いた二年の佐古田由美(さこたゆみ)は、そう言うと不快そうに鼻に皺を寄せた。
「ここは洋裁学校になる前は女学校やったんよ。せやから、洋裁の授業以外に茶道やお花、英会話の授業があるんやで。」
佐古田由美の隣に居た佐々木芙由子(ふゆこ)がとっさに利尋に助け船を出した。
「そうなんですか・・」
「これ、校内の地図。一時限目は8時半からやから、遅刻せんようにね。」
「わかりました。」
入学式から一週間後の朝、利尋が学生服を着て食堂に入ると、そこには芙由子の姿があった。
「佐々木先輩、おはようございます。」
「おはよう。どう、ここでの生活にはもう慣れた?」
「ええ・・」
「最初はまだ慣れへんから大変やろうけど、頑張ってな。」
「はい。」
芙由子から渡された地図を頼りに、利尋は「1年C組」と書かれたプレートが提げられた教室の中へと入った。
「おはよう、土方さん。」
「おはよう、石田さん。」
「今日から授業ね。何だか緊張しちゃう。」
「うん・・」
清美と利尋がそんな話をしていると始業を告げるチャイムが鳴り、教室に面接試験会場で校長の隣に座っていた外国人教師が入って来た。
「初めまして皆さん、わたしはゴードンです。これから一年間、宜しくお願いします。」
流暢な日本語で生徒達に挨拶をしたゴードンは、黒板に自分の名前を書いた。
「それではまず、自己紹介から始めましょう。」
「石田清美です、横浜から来ました。趣味はヴァイオリンと、読書です。」
「林耀子です。大阪から来ました。どうぞ宜しくお願いします。」
「土方利尋です。東京から来ました。趣味はピアノと読書です。」
緊張で身体を震わせながら自己紹介した利尋の姿を見て、女子生徒達の何人かが彼の方を指してクスクスと笑った。
「皆さん、このクラス全員がチームです。デザイナーはただ一人で服をデザインして作るだけの仕事ではありません。一人で出来ることには限界がありますが、みんなが力を合わせれば、何でも出来ます。」
ゴードンが教室から出て行った後、利尋の元に林耀子がやって来た。
「あんた、東京から来たん?」
「はい・・耀子さんは、大阪のどちらからいらしたんですか?」
「うちは船場から来てん。両親が呉服屋やってるんや。」
「へぇ、そうなんですが・・でもなんで洋裁学校に?」
「着物は嫌いやないけど、うちは新しい事に挑戦したくてここに来たんや。土方君は、どうしてここに来たん?」
「一流のデザイナーになる為です。洋裁は今まで独学で学んできましたが、限界があって・・」
「ふぅん、じゃぁうちと同じ夢を持つ同志やな。宜しく!」
「宜しくお願い致します。」
昼休み、午前中の授業を終えた利尋と耀子、清美が食堂に入ると、そこには数人の友人達に囲まれている由美の姿があった。
「佐古田先輩、おはようございます。」
「ああ、丁度いい所に来たわ。明日までに雑巾百枚縫ってきて。」
「え・・」
「新入生が雑巾百枚縫うのが、この学校の伝統なんや。」
「土方君、先輩に逆らわん方が身のためやで?」
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