「何よあれ。あの人、土方君に嫌がらせしてるだけじゃない!」
「ほんまや。うちの店にも、新入りの丁稚に地味な嫌がらせして追い出す奴がおったわ。利尋君、嫌やったらちゃんと断り?」
「いえ。佐古田先輩が縫えとおっしゃっているのですから、やりませんと・・」
「あんたなぁ、お人よし過ぎるわ!佐古田先輩は、あんたをここから追い出そうとしてんねんで?」
由美達が食堂から出て行った後、耀子はそう言って呆れたような顔をして利尋を見た。
「そうよ土方君、別に雑巾百枚明日まで縫わなくたって、何もないわよ。」
「ですが・・」
「しゃぁないなぁ、うち手伝うわ!」
「わたしも手伝うわ。百枚だから、一人で二十五枚縫って、わたしと林さんのを合わせれば全部で五十枚になるでしょう?そしたら、残り半分の五十枚を土方君が縫えばいいのよ。」
「すいません、僕の所為でお二人にご迷惑をお掛けしてしまって・・」
「困った時はお互い様や!」
耀子はそう言って笑うと、利尋の背を叩いた。
昼休みの間、利尋達は早速雑巾を縫い始めた。
「佐古田先輩は土方君にライバル意識を燃やしているとしか思えないわ。」
「さぁな。うちは超能力者やないからわからへんわ。」
裁縫室で清美と耀子が雑巾を縫いながらそんな話をしていると、そこへ由美達がやって来た。
「それ、どないしたん?」
「ああ、これですか?校内美化に努めようと思いまして・・」
「ふぅん、そう。土方君の手助けなんかしたら、どうなるかわかってるやろうなぁ?」
「そんなことしませんって!」
慌ててそう由美に誤魔化した耀子だったが、彼女の笑顔は少しひきつっていた。
「はぁ~、危なかったわぁ!」
「佐古田先輩って、どうして土方君の事を嫌うのかしら?土方君は先輩に恨みを買うようなことはしてないっていうのに・・」
「そう思ってんのはうちらだけちゃう?本人が知らない内に人の恨みを買っているっていうのはよくあるからなぁ。」
「まぁ、あの人には関わらない方がいいわね。」
放課後、清美と耀子は雑巾五十枚が入った手提げ袋を利尋に教室で渡した。
「これで何とかなると思うわ。」
「ありがとうございます、石田さん、林さん。」
「土方君、あんな女に負けちゃ駄目よ!わたしたち、応援しているわ!」
「意地悪女をギャフンと言わしたれ!」
「わかりました・・僕、頑張ります!」
その日の夜、利尋は残りの雑巾五十枚を縫いあげると、溜息を吐いてベッドに寝転がった。
「出来た・・」
ちゃんと百枚あるかどうか利尋は枚数を数えながら、自分を助けてくれた清美と耀子に改めて感謝の気持ちを伝えたいと思った。
「土方君、雑巾はできたんか?」
「はい、出来ました。」
翌朝、食堂で利尋はそう言うと由美達に雑巾百枚が入った手提げ袋を手渡した。
「なかなかやるやないの。でも余り調子に乗らんときや。」
由美はフンと鼻を鳴らして利尋を睨み付けると、取り巻きを従えて食堂から出て行った。
「やっぱり好かんわ、あの女。」
「しっ、先輩に聞こえるでしょう!」
清美はそう言うと、慌てて耀子の口元を両手で覆った。
「由美さん、あの子どうします?」
「もうあの子に構うのは止めるわ。あんたら、あたしに隠れて余計な事したら承知せぇへんで。」
「は、はい・・」
(土方利尋・・絶対に潰したる!)
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