1949(昭和24)年3月。
神戸・三ノ宮にある洋裁学校で、卒業式が行われた。
「これから社会に出る皆さんには、我が校で学んだ経験や技術を生かし、大きく自分の翼を広げてください。」
卒業式は滞りなく進行し、やがて主席卒業生の挨拶の時間になった。
「土方利尋君、前へ。」
「はい!」
利尋は元気よく返事をすると、壇上へと向かった。
「僕はこの学校で様々な事を学びました。素晴らしい先生方と仲間達と力を合わせたこの3年間の学校生活の事を、僕は決して忘れません。」
「あの子も立派になりましたね、あなた。」
「ああ・・」
保護者席で主席卒業生として挨拶する利尋の姿を見つめながら、歳三と千尋はそう言って溜息を吐いた。
「利尋、卒業おめでとう。」
「ありがとうございます、お父様、お母様。」
「3年間良く頑張りましたね。」
卒業式を終えた後、利尋は両親と兄、母の従兄である博章とともに神戸市内にあるステーキハウスで夕食を取っていた。
「利尋君は、これからどうするんだい?」
「そうですね・・パリに行って、もっとデザインのことを勉強したいと思います。」
「留学費用は俺達が出すから、心配するな。」
「一度海外に出て、広い世界を見ることは必ずあなたの役に立つ筈よ。」
利尋が両親にフランスへ留学したい事を話すと、二人は笑顔で彼に賛成してくれた。
「利尋はいいよなぁ、ちゃんとした夢があって。俺なんか将来何をしたいのかなんてまだわからねぇよ。」
「明歳君、焦りは禁物だよ。誰だって自分の道を決める時が来るんだから。」
「博章さん、新しい病院の方にはもう慣れたの?」
「ああ。すまないね千尋ちゃん、僕の就職の世話までしてくれて・・」
「いいのよ、西田家には色々と世話になったのだから、これ位させて頂戴。」
「さてと、今夜は二人の若者達の輝かしい未来を祈って乾杯しようじゃないか!」
「お、博章おじさん太っ腹~!」
「千尋ちゃん、どう?僕に惚れ直したかい?」
「言っとくが博章、千尋は渡さねぇよ!」
「まぁた、始まったよ・・」
「そうだね・・」
大人三人の喧嘩を傍目で見ていた少年達は、そう言って溜息を吐くとグラスに入った水を飲んだ。
1953年(昭和28)2月、横浜港。
「それでは、行って参ります。」
「あなたは昔から気管支が弱いから、風邪をひかないように気をつけるのですよ。」
「わかっています、お母様。」
「何でも一人で抱え込むんじゃねぇぞ?」
「わかりました、お父様。」
「気を付けてね、利尋君。」
両親達に見送られながら、利尋はファッションの本場・パリへと旅立っていった。
~Fin~
にほんブログ村