「なんだ、てめぇ!?」
母屋に入ってきた歳三を睨みつけた男は、そう言うと雅代の喉元から匕首を話さずに、彼を睨みつけた。
「それはこっちの台詞だ。てめぇ一体何者だ?」
「ふん、そんなのお前ぇには知ったこっちゃねぇだろう、今から死ぬ奴にはよ!」
「へぇ、そうかい・・だったら、こっちも容赦しねぇぞ。」
男は雅代を突き飛ばすと、歳三に向かって匕首を振り翳した。
歳三は咄嗟に身を屈めると、男の向う脛を蹴りあげた。
「畜生、舐めやがって!」
痛さに顔を顰めた男はそう叫ぶと匕首を投げ捨て、腰に差していた長ドスを抜いた。
男は獰猛な獣を思わせるかのような目つきで歳三を睨むと、上半身裸になった。
すると彼の背に彫られた鮮やかな龍の刺青が戸口から漏れる微かな陽光に照らされて、蒼い輝きを放った。
「いくぞ・・」
歳三は男と間合いを取ると、男が先に攻撃を仕掛けてくるのを待った。
「おい、何ぼけっとそこで突っ立ってやがる?まさか、今更俺が怖いんじゃねぇだろうなぁ?」
「てめぇ、馬鹿にするんじゃねぇぞ!」
男は歳三の挑発に乗り、勢いよく彼に突進してきた。
その隙を狙った歳三は、素早く身体を反転させ、男の後頭部に拳を叩き込んだ。
「ぐえっ!」
蛙が地面に踏みつぶされるかのような声を出した男は、そのまま地面に倒れた。
「ふん、ざまぁねぇな。」
歳三はそう言うと、しずの身体を縛めている荒縄を切った。
「ありがとうございます。」
「雅代さん、無事ですか?」
「ああ。」
「この男と面識はありますか?」
「ないよ。さっき突然来てね、眞琴ちゃんは何処だって聞いて来たんだよ。」
(こいつの狙いは、眞琴か・・)
昨日千尋から聞かされた話を思い出した歳三は、この男を送りこんだのは石田だとにらんだ。
「おい、起きろ。」
男を“いぶき”の母屋の外れにある土蔵に監禁し、歳三はそう言うと男に頭から冷水を浴びせた。
男は歳三の顔を見て彼から逃げようとしたが、天井から両足首を荒縄で縛られて逆さ吊りにされているので動けなかった。
「なぁ、俺は何もお前ぇを取って食おうとしている訳じゃねぇんだ。ただ、誰に頼まれて此処に来たのかを教えて貰いてぇだけなんだよ。」
そう男の耳元で甘い声でそう囁く歳三だったが、男は歳三が悪魔に見えた。
「俺は何も知らねぇ・・」
「ふぅん、そうか。なら、お前ぇが吐くようにするまでのことだ。」
歳三はにっこりと男に微笑むと、五寸釘を彼に見せた。
「おい、何する気だ!?」
「別に。」
数分後、土蔵の中から男の絶叫が聞こえた。
「また、あれをしましたか・・」
「あれって何だい?」
「いえ、ただの独りごとです。雅代さん、しずさん、お怪我はありませんでしたか?」
「ああ。歳三さんが来てくれなかったら、あたしら二人ともあいつらに殺されていたよ。」
土蔵で歳三による苛烈な拷問を受けた男は、歳三に自分に眞琴を拉致するよう指示した者の名を告げた。
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