JEWEL

2016/01/02(土)18:22

暁の鳳凰 第78話

完結済小説:暁の鳳凰(84)

7年前―2011年元旦、福岡市内あるマンションの一室に宅配業者を装った強盗が中洲の高級クラブ『シャンテ』のママ・前川瑛子宅に押し入り、現金三千万相当の貴金属を奪い、逃走した。 この事件で犯人に鉈(なた)で切り付けられた瑛子は両腕に全治三ヶ月の重傷を負った。 そして、荻野千尋は・・ (荻野千尋は当時臨月だった。もしその時の子が生まれていれば7歳になるか・・) 吉田律子殺害事件の後自宅から失踪した荻野千尋は、福岡・中洲でホステスとして働き、『シャンテ』のママ・瑛子と同居していた。 そのママが強盗に襲われた後、千尋は再び姿を消した。 臨月の身で、彼女は何処に消えたのだろうか― 「トシ、またこの事件の資料を見ているのか?」 「ああ。なぁ近藤さん、臨月の妊婦が逃げる場所って、何処だと思う?」 「そんな事を突然聞かれてもなぁ・・俺には見当もつかないよ。」 「そりゃそうだろう。まぁ7年前の事件に、荻野千尋が関わっていないことは確かだ。俺ぁ、この事件に吉田議員が絡んでいるとにらんでるんだ。」 「吉田議員が?」 「ああ。あいつは荻野千尋に裏金の五千万を盗まれたっていうのに、警察に届け出なかったし、俺達に荻野千尋の捜索を打ち切ってくれと言った。だが、あいつが金で探偵を雇って荻野千尋を探し出したとしたら・・」 「事件の真相を知っている荻野千尋を、吉田議員が人を使って殺すと思っているのか?」 「有り得る話じゃねぇか。」 「吉田議員には色々と悪い噂があるからなぁ・・暴力団との癒着があるとか・・」 「まぁ、それは後で調べる事にして、今は福岡の事件を調べてみようと思ってんだ。」 「そうか。」 歳三と近藤は、7年前の事件の真相を調べるため、福岡へと向かった。 「あの日の事はよう憶えとるよ。」 荻野千尋と同居していた中洲の高級クラブ『シャンテ』のママ、前川瑛子は、そう言うと歳三達を見た。 「事件当時、あなたと同居していた荻野千尋さんは臨月を迎えていたんですよね?そんな彼女が、何故突然姿を消したのだと思いますか?」 「多分、千尋は昔付き合っていた男が自分の居場所を突き止めたと思うて、逃げ出したんやろうねぇ。」 「昔付き合っていた男?」 「あの子、男から酷い暴力を受けて東京から逃げて来たんよ。男から逃げてこの店で働きだした後、妊娠に気づいたって言うとったよ。」 「そうですか・・」 「あぁ、そういやぁ千尋はあたしが強盗に襲われた後、産気づいたんよ。それであたしとあの子は救急車で病院に運ばれたんよ。」 「それ、何処の病院ですか?」 「福岡中央病院たい。刑事さん、わざわざここに来て7年前の事件のことをうちに聞いたりするのには、何か深いわけがあるとね?」 瑛子はそう言うと、吸っていた煙草の吸殻を灰皿に押し付けた。 「ええ、まぁ・・」 「刑事さん達だけに、7年前の事を話そうかねぇ・・」 瑛子はスコッチを一口飲んだ後、歳三と近藤に7年前の事件のことを話した。 宅配業者を装った強盗に鉈で襲われた瑛子を見た千尋は、そのショックの余り産気づいてしまった。 「千尋、しっかりせんね!」 「痛い、痛い~!」 千尋が着ていたワンピースの裾は血で濡れており、彼女は額に脂汗を浮かべながら絨毯の上をのたうちまわっていた。 「今救急車呼ぶけんね!」 救急車で瑛子とともに福岡中央病院に搬送された千尋は、すぐさま分娩室に運ばれた。 「先生、胎盤剥離を起こしかけています!このままだと母体も胎児も危険です!」 にほんブログ村

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