JEWEL

2014/03/24(月)16:24

炎の月-31-

完結済小説:炎の月(160)

イラスト素材提供:十五夜様 ライン素材提供:ひまわりの小部屋様 それは、三泊四日の臨海学校で歳三達が鎌倉に行った時に起こった。 臨海学校中、歳三達は鎌倉市内にある旅館の一室で宿泊する事になったが、部屋割のことで康二郎と、彼を敵視している相田靖男が口論を始めたのが、事件の発端だった。 「冗談じゃないぞ、何で僕がこんなやつと同じ部屋なんだ!」 「おらだって、お前ぇなんぞと一緒に寝たくもねぇ!」 「先生、何とかならないんですか?」 「済まないが、もう決まったことなんだ。二人とも、我慢してくれ。」 担任の言葉を聞いた歳三は、嫌な予感がして勇とともに康二郎達の部屋へと向かった。 「おい康二郎、居るか?」 歳三が襖を叩いてそう康二郎達に呼びかけたが、中から返事はなかった。 「トシ、大変だ!」 「どうしたんだ、何かあったのか?」 「靖男が・・靖男が・・」 恐怖で蒼褪める同級生に連れられて岸壁へとやって来た歳三と勇は、そこで頭から血を流している靖男を発見した。 「おい、誰か先生呼んで来い!」 「わかった!」 「おい靖男、大丈夫か?」 頭から血を流し、痛みで呻いている靖男の前に跪いた歳三は、彼が何か小声で呟いていることに気づいた。 「おい靖男、何て言っているんだ?」 「・・あいつが、僕を突き落とした・・」 「え?」 「悔しい、悔しい・・」 靖男はそう呟くと、そのまま意識を失った。 その後靖男は病院に運ばれたが、事件の四日後に息を引き取った。 事件現場に靖男と康二郎の姿を見たという目撃証言があり、事件後に姿をくらましている康二郎に、同級生達は疑いの目を向けた。 「あいつなら、靖男をいつか殺すだろうと思った。」 「ああ、前から靖男と仲が悪かったからな、あいつ。」 「まさか、殺すなんて・・」 以前から康二郎の事を余り良く思っていなかった同級生達は、靖男を殺したのは康二郎に違いないと勝手に決めつけた。 事件から一週間後、一人の男が鎌倉署に自首してきた。 その男は靖男の家で庭師として働いている光浦智雄という20歳の男で、靖男と岸壁の近くで遊んでいる内に、誤って彼を突き飛ばしてしまったのだという。 事件は無事に解決したが、康二郎の消息は杳として知れなかった。 そしてあの事件から20年もの歳月が流れ、康二郎は実業家として成功した歳三と再会を果たしたのだった。 (歳三、おめぇはちっとも変ってねぇな・・変わったのは、おらだけだ。) ベッドに寝転んだ康二郎は、そっと両掌を自分の顔の前に翳した。 美しく滑らかな白魚のような歳三の手とは違い、厳しい労働をこなしている康二郎の両手は節くれだち、指の形が少し変形していた。 臨海学校で起きた事件の後、姿を消した康二郎は北海道で炭鉱を営んでいる男に拾われ、彼の炭鉱で身を粉にして働いた。 働きながら大学まで行き、漸く心から信頼しあえる友人にも恵まれた。 だが、康二郎の心の底には、未だに小学校時代の苦い思い出が燻(くす)ぶっているのだった。 「今日も寒ぃなぁ・・」 スケート靴を履きながら歳三がそう呟いて溜息を吐いていると、そこへ康二郎がやって来た。 「おめぇ、何してんだ?」 「スケートだよ、スケート。」 「おらにもやらせろ。」 にほんブログ村

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