「肺炎ですね。暫く入院して様子を見ましょう。」
「先生、娘はよくなりますか?」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、お父さん。落ち着いてください。」
歳三は病院で自宅へ電話を掛け、琴子に美砂が肺炎に罹り、暫く入院することを伝えた。
『そう。それじゃぁ、あなた暫く美砂の世話頼むわね。』
「おい、お前母親だろう?まさか美砂が入院しているっていうのに、同窓会に行くつもりじゃねぇだろうな!?」
『行くに決まっているじゃない!あたしだってたまには息抜きしたいのよ!大体何よ、あなたは今まで好き勝手な事ばかりして・・』
受話器越しに響く琴子の怒声を聞いた歳三は、そのまま無言で受話器を元の場所に戻した。
翌朝、歳三が病院から帰宅すると、リビングのテーブルには一枚のメモが置かれていた。
“同窓会に行ってきます、美砂のこと頼むわね 琴子”
歳三はそのメモを細かくちぎると、それをごみ箱に捨てた。
「土方先生、おはようございます。」
「おはよう・・」
「顔色、少し悪いですね?何かあったのですか?」
「ああ・・娘が入院しちまってな。」
「そうですか、それは大変ですね。何かわたしに手伝えることはありますか?」
「そのお気持ちだけで嬉しいです。」
「そうですか、それじゃぁわたしはこれで失礼いたします。」
家庭科教師の如月絵梨は、そう言うと歳三に背を向け職員室から出て行った。
「トシ、美砂ちゃん入院しているのか?」
「ああ。琴子のやつ、美砂が入院しているっていうのに、高校の同窓会に行きやがった。」
「困ったことがあれば、いつでも俺に言えよ。」
「ありがとう、近藤さん。」
昼休み、歳三は学校を出て車で病院に向かった。
「美砂ちゃん、今はお薬飲んで寝ていますよ。」
「そうですか。すいません、ご迷惑をお掛けしてしまって・・」
「いいえ。奥様は今どちらに?」
「高校の同窓会に行っています。暫く実家の方に泊まるから、美砂の世話を宜しく頼むと・・」
「困ったお母さんですねぇ。」
「ええ、そうですね・・」
歳三は看護師の言葉に苦笑いしながら、ベッドの上で寝ている美砂を見た。
「土方先生、さようなら。」
「おう、気を付けて帰れよ。」
「トシ、今日は早めに帰ったらどうだ?」
「わかった。」
「気を付けて帰れよ!」
学校を出た歳三は、自宅の近くにあるスーパーで買い物をしていると、そこへカートを押した絵梨が現れた。
「土方先生も買い物ですか?」
「ええ、まぁ・・如月先生は?」
「息子が明日遠足なので、そのお弁当作りの材料を買いに来たんです。」
「そうですか・・それじゃぁ、俺はこれで。」
歳三はそう言ってカートを押すと、絵梨の前から去っていた。
何故か、歳三は彼女が苦手だった。
「ただいま・・」
誰も居ないリビングでそう呟いた歳三は、スーパーで買ってきた食材を冷蔵庫の中に入れた。
テレビの近くには、今朝取り込んだ洗濯物が散乱していた。
(アイロンがけくらいしろよ・・)
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