JEWEL

2014/05/18(日)19:50

真紅の波濤 第7話

完結済小説:わたしの彼は・・(73)

「一体何をしているんですか?」 「千尋、お帰り。ちょっと調べ物をしていたんだ。」 「調べ物?」 「ああ。もう終わった。」 歳三はそう言うと、ノートパソコンを閉じた。 「お風呂、入りますか?風邪をひいてから、もう一週間も入っていないでしょう?」 「ああ。身体は洗わなくても平気なんだが、髪がベタついて気持ちが悪くて仕方ねぇんだ。」 「そうですか・・じゃぁ寝間着の着替え、後で持って行きますね。」 「ああ。」 歳三が浴室に入ったのを確かめた千尋は、歳三が使っていたノートパソコンの蓋を開いた。 スリープモードになっていた画面が解除され、液晶のディスプレイに騎手時代の歳三の写真が表示された。 (これは、一体・・) 「千尋、シャンプーもうすぐ切れそうだぞ?」 「すいません、明日買ってきます。」 シャワーを浴びた後、寝室に戻ってきた歳三は、千尋があの業者のHPを見ている事に気づいた。 「見ちまったか・・」 「一体どういうことなのですか?この会社のHPに、あなたの写真が載っているなんて・・」 「実は・・」 歳三は千尋に、マンションのエントランスで見知らぬ青年と言い争いになったことを話した。 「その時俺に殴りかかって来たやつが持っていた週刊誌の広告に、俺の写真が載っていたから、広告を出している会社をネットで調べてみたんだよ。」 「それで、このサイトに辿り着いたというわけですね?」 「ああ。競馬必勝法詐欺って知ってるか?必ず当たるって言って、金を騙し取る・・」 「ああ、この前ニュースでやっていましたね。」 「どうやら、俺がこの競馬必勝法詐欺をしている会社の広告塔になっているみてぇなんだ。何処から俺の騎手時代の写真がこの会社に渡ったのか、何で俺がこの会社の広告塔になっているのか、わけがわからねぇんだ。」 「余り気にしない方がいいですよ。それよりも、まずは風邪を治してください。」 「わかったよ。それよりも千尋、陸が誰かに鉄パイプで頭を殴られてお前の職場に運ばれたんだってな?」 「ええ。幸い命に別条はありませんでしたが、意識はまだ戻っていません。歳三さんに陸君のことを連絡しようと思っていたんですが、昨日はひっきりなしに急患が来てそれどころではなかったんです。」 「陸以外にお前を必要としている患者が居るんだから、別に謝らなくてもいいよ。早く犯人が捕まるといいな。」 「ええ。」 朝食の卵粥を食べた歳三は、寝間着の上にダウンジャケットを着て寝室から出た。 「何処へ行くのですか?」 「ちょっと出掛けて来る。」 「わかりました。余り遠くに行かないでくださいね?」 「わかってるよ、そんなこと。ガキじゃねぇんだから、心配すんな。」 歳三はそう言って千尋の頬に素早く唇を落とすと、陸の自転車の鍵を掴んでマンションの部屋から出て行った。 数分後、彼は息子の自転車を廃工場の前に停め、廃工場の中へと入った。 歳三が人気のない工場の中を歩いていると、何処からともなく猫の鳴き声が聞こえた。 もう帰ろうかと歳三が廃工場から出ようとすると、彼は自分の足元に猫が身体を擦りつけていることに気づいた。 「済まねぇなぁ、餌は持って来てねぇんだよ。」 歳三がそう言って腰を屈めて猫の頭を撫でた時、彼は誰かが自分の背後に立つ気配を感じた。 にほんブログ村

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