JEWEL

2014/05/18(日)19:54

真紅の波濤 最終話

完結済小説:わたしの彼は・・(73)

太田を殺した犯人は、彼と同棲していた女だった。 「痴情の縺(もつ)れってやつですか・・その女が、太田さんを殺したのは。」 「ええ。わたしはこの仕事をやって長いですが、男と女の間にはいつも事件が起きますね。」 「そりゃそうでしょう、男と女は全然違う生き物ですからね。」 歳三はそう呟くと、丸岡が持って来てくれたクッキーを頬張った。 「丸岡さん、陸の事で色々とお世話になりました。」 「息子さんが退院できて良かったですね。」 丸岡は黒猫と遊ぶ陸の姿を横目で見ると、リビングから出ていった。 「陸、ジュリーと遊んでないで少しは手伝え。」 「わかった。」 陸はそう言うと、ジュリーをゲージの中に戻した。 「ねぇお父さん、今日の夕飯はハンバーグ?」 「ああ。お前の退院祝いだから、豪勢にいこうと思ってな。海老フライも後で作ろうな?」 「うん!」 千尋が病院から帰宅してリビングに入ると、キッチンの方から良い匂いが漂ってきた。 「千尋さん、お帰りなさい!」 「陸君、今日の夕飯は?」 「海老フライとハンバーグだよ。お父さんが、僕の退院祝いにって作ってくれたんだ!」 「よかったですね。」 その日の夜、陸と歳三が作った夕飯を三人で囲んだ。 「どう、美味しい?」 「ええ。」 「さっき丸岡っていう刑事が来て、このマンションで起きた殺人事件の犯人が捕まったってさ。犯人は、太田と暮らしていた女だった。」 「あの人が、太田さんを・・」 千尋の脳裏に、あの日エレベーターの中で千尋に向かって自分は幸せだと言い張った葉瑠の何処か寂しそうな横顔が甦った。 彼女は、幸せになりたかったのだろうか。 刑事の話によると、葉瑠は太田の子を妊娠していて、子どもを生む、生まないで太田と揉めて彼を殺してしまったらしい。 『子どもが出来たら、彼は変わってくれると思った。』と、葉瑠はそう供述した。 彼女は今、どんな気持ちで居るのだろうか。 子どもの父親を手にかけ、殺人犯となってしまった彼女は、この先どう生きるのだろう。 「どうしたの、千尋さん?食欲ないの?」 「いいえ、何でもありません。」 我に返った千尋は、慌てて箸を取り、海老フライを一口齧った。 「千尋、この事件のことは早く忘れた方がいいぜ?」 「そうですね・・」 「嫌な事はさっさと忘れた方がいい。じゃないと、延々と引き摺っちまう。」 歳三はそう言うと、グラスの中に入った水を飲んだ。 「千尋、乾杯しようか?今日は陸の退院祝いなんだから、パーっとやらねぇとな。」 「ええ・・」 歳三は冷蔵庫から冷えたワインを取り出すと、そのコルク栓を素早くワインオープナーで開けた。 「いいなぁ、二人ともお酒が飲めて。」 「お前ぇも大人になったら飲めるさ。」 歳三は千尋と自分のグラスに赤ワインを注いだ後、自分のグラスを持ってそれを高く掲げた。 「それじゃぁ、乾杯~!」 「乾杯~!」 END にほんブログ村

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