「眞岡先生、お話とは何でしょうか?」
「宮下真紀についてなんですが・・彼がフィギュアスケートの選手として活躍していることは、土方先生もご存知ですよね?」
「ええ。それが、どうかしましたか?」
「宮下真紀の出席日数が全然足りないんです。このままいけば、留年するかもしれません。」
「まぁ、それは仕方がないでしょう。」
「わたしは宮下が有名なスポーツ選手だからといって、特別扱いはしません。彼の本業は勉強です。」
「眞岡先生、それはわたしではなく、宮下本人に言ってください。」
眞岡の話はもっともだが、そんな当たり前のことを自分に言われても困る。
「土方先生は、宮下とは付き合いが長いんですか?」
「さぁ・・」
「話は変わりますが、如月先生は土方先生の事を前から狙っているようですよ?」
「へえ、そうですか・・」
昨夜の如月の様子を思い出しながら、歳三はそう言って眞岡を見た。
「土方先生の奥様は、子供が入院しているというのに子供を土方先生に押し付けて実家に帰っていると、如月先生から聞きました。」
「琴子は、結婚前から自分の都合を常に優先してきた奴ですから・・それは母親になっても、変わらないでしょう。」
「まぁ、そういう一部の親が子供を虐待したりしますよね。大阪で幼い子供二人を自宅に閉じ込めて餓死させた女も居ますし・・子供よりも、自分の都合を優先する人は、子供を産むべきじゃないと思います。」
眞岡はそう言って軽く咳払いすると、コーヒーを一口飲んだ。
「あ、さっきのは土方先生の奥様のことを非難しているつもりではないですよ。あくまでも、僕個人の意見です。」
「わかっています。琴子が娘を産んだ時、あいつはまだ遊びたい盛りの年頃でしたからね。同級生がお洒落して遊びに行ったりしている時に、赤ん坊の世話をしなければならないのがあいつには我慢ならなかったんでしょう。」
「土方先生は、優しい人なんですね。」
「え?」
「僕が土方先生の立場だったら、すぐに奥さんを家に連れ戻して、離婚を言い渡します。」
「眞岡先生は、厳しいんですね。」
「ええ。僕は理想が高いので、35になっても独身なんですよ。時々母親からは早く孫の顔が見たいと催促の電話がかかってきます。」
「それはこたえますね。」
「一度結婚相談所に登録して、お見合いパーティーに何度か出てみたのですが、収穫なしでした。相手の女性たちが結婚する男に求めるのは、安定した収入と、自分をどれほど愛してくれるかという愛情の深さだと気付いた時点で、婚活をする気をなくしてしまいました。一生独身でも、今の時代お金さえあれば、生きていけると思うんです。」
「そうですか・・」
「すいません、僕が土方先生を呼び出したのに、自分の話ばかりしちゃって・・」
眞岡はそう言って苦笑すると、再びコーヒーを一口飲んだ。
「とにかく、土方先生は奥様を甘やかし過ぎているんじゃないですか?このままだと、奥様に完全に舐められてしまいますよ?」
「眞岡先生、ご忠告、有難うございます。」
「宮下の事は、僕が一度親御さんを学校に呼んで、じっくりと三人で話したいと思います。」
眞岡がそう言ったとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「僕の話に付き合ってくださって、有難うございました。」
歳三が教室に入ると、何やら千尋の周りに数人の生徒達が集まって騒いでいた。
「おいてめぇら、もう授業始まってるぞ!」
歳三の姿に気付いた生徒達は、バツの悪そうな顔をして千尋の席から離れた。
千尋の様子が少しおかしいことに気づいた歳三は、放課後彼を数学準備室に呼び出した。
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