歳三は会場を見渡しながら、ここだけが時間が明治時代から止まっているような感覚に陥った。
「おや、土方さん。来てくださったのですね。」
「ああ、實小路さん、本日はお招きいただいて有難うございます。」
「いいえ。それよりもあなたの会社は年々急成長しておりますな。」
實小路光忠はそう言いながら、歳三を見た。
「わたしは会社の経営に携わっていないので、詳しいことはわかりません。」
「確か、土方さんは学校の先生をなさっておられるとか。」
「ええ。父から教師になることを反対していましたが、父の反対を押し切って教師になってから、実家とは絶縁しております。」
「そうですか。色々と大変だったのですね。」
「それに、妻との離婚で色々と実家で揉めましたし・・」
「土方さんは良い男ですから、必ず運命の人にまた出会えますよ。」
光忠はそう言って歳三に微笑むと、他の招待客のところへ向かった。
(つまらねぇから、もう出ようかな・・)
歳三がそんなことを思いながらシャンパンを飲んでいると、会場に一人の少女が入ってきた。
彼女は瑠璃色の美しいドレスを纏い、首には美しい真珠のネックレスをつけていた。
その少女は、千尋に瓜二つの顔をしていた。
「漸く来たんだね。やっぱり、そのドレスが一番似合っているよ、千尋。」
「實小路さん、その子は?」
「この子はわたしの娘で、千尋というのですよ。千尋、土方さんにご挨拶なさい。」
「初めまして。」
千尋はそう言って歳三に挨拶すると、彼の手に何かを握らせた。
「この子は身体が弱くてね、今まで伊勢にあるわたしの別荘で療養していたのですよ。」
「そうですか。千尋、他のお客様にご挨拶を。」
「はい、お父様。」
光忠と千尋が会場の隅に行ったのを確認した歳三は、彼から渡されたメモを開いた。
“夜8時半に、ホテルの屋上で待っています 千尋”
パーティーが終わったのは、夜の8時過ぎだった。
「千尋、わたしは千草と少し出かけて来るから、部屋で大人しくしているんだよ。」
「わかりました、お父様。」
光忠と千草が部屋から出て行くのを確認した千尋は、バッグの中からスマートフォンを取り出し、歳三にメールを打った。
『今すぐ屋上に行きます。』
千尋はドレスから普段着に着替えた後、そのまま部屋から出てエレベーターで屋上へと向かった。
同じ頃、歳三はホテルの屋上で千尋が来るのを待っていた。
「土方先生!」
「千尋、無事だったのか!」
千尋は息を切らしながら、歳三の胸に飛び込んだ。
「僕、實小路さんの別荘に今まで監禁されて・・一ヶ月の間、スマートフォンを取り上げられて、連絡が出来なくて・・」
「お前が無事でよかった。家まで送る。」
「はい・・」
「千尋・・わたしから逃げたのか・・」
部屋に千尋の姿がないことに気づいた光忠は、そう言うと手に持っていたキャンディーを握り潰した。
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