JEWEL

2014/08/26(火)09:30

金襴の蝶 第33話

完結済小説:金襴の蝶(68)

「あなたが、宮下真紀さんの双子の弟さん?」 「ええ、そうですけれど・・菱田さんは、兄の事を知っているんですか?」 「知っているも何も、わたしの弟はあなたのお兄さんとはライバルなのよ。」 菱田樹里はそう言うと、千尋に弟の写真を見せた。 「菱田凌介って、確かオリンピック出場候補から外れたって聞きましたけれど・・」 「ええ、今回弟は怪我をしてオリンピックに出場できなかったけれど、次のオリンピックには出場するつもりよ。だからあなたのお兄さんに、余りいい気になるなと伝えておいて頂戴。」 樹里はそう言って弟の写真をバッグの中にしまうと、千尋に背を向けてカフェから去っていった。 「千尋君、済まないね。樹里さんは君のお兄さんの事をあんまりよく思っていないんだ。」 「そうですか。あの、どうして駿弥さんはこのホテルに樹里さんといらしたんですか?」 「今度、横浜で大きなスポーツイベントがあってね、その大会にお義父さんと後援会の皆さんがお手伝いをすることになったから、大会の関係者の方達とちょっとした会合を開いていたのさ。」 「へぇ、そうですか。義兄さんもあの人の使い走りをさせられるなんて、苦労が絶えませんね。」 「そうでもないよ。それじゃぁ千尋君、またね。」 「ええ・・」 夜7時、千尋と歳三はカフェから出て、真紀との待ち合わせ場所であるイタリアンレストランへと向かった。 「千尋、会いたかった。」 「兄さん、さっき菱山選手のお姉さんにカフェで会ったよ。」 「ああ、凌介の姉貴に会ったのか。何か嫌味を言われなかった?」 「別に。兄さん、あの人の事を知っているの?」 「まあな。俺は凌介とは仲が良いんだけれど、あいつの姉貴が勝手に俺をライバル視してさ。オリンピックの出場を凌介が辞退したのだって椎間板ヘルニアが悪化して、ドクターストップがかかったからだ。」 真紀はそう言って溜息を吐くと、グラスに入っていた水を一口飲んだ。 「そんなことがあったんだ・・」 「片方だけの意見ばかり聞くと、それが嘘でも真実のように捻じ曲げられて報道されてしまうから、厄介だよな。今はネット上で書いてあることが本当だって信じ込んでしまう連中も居るし・・」 「確かに。それに最近バイト先で悪ふざけした写真をツィッター上に載せて炎上した人もいるよね?」 「あいつらは目立ちたいだけの馬鹿だよ。世の中の善悪の判断がつかない奴なんて、いい年した大人でも結構いるさ。」 「兄さんはツィッターとかはしないの?」 「SNSの類はしていないし、する気もない。まぁ、ブログは月に一度くらい更新はしているけどね。」 「そう。」 三人の前に前菜のコーンスープとマリネのサラダが運ばれてきた。 「ここのレストランには、よく食事に行くの?」 「まぁね。よく宮下の両親と誕生日の時に食事をしていたんだ。」 「そうなの。」 「土方先生、これから千尋の事を守ってやってくださいね。」 「わかった。宮下、オリンピックに出場するんだったんなら、学校はどうするんだ?」 「今日、休学届を出しました。土方先生たちには、ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。」 「いいんだよ、謝らなくても。それよりも余り無理をするなよ。」 「わかりました。」 久しぶりに真紀と過ごした時間は、とても楽しかった。 「ねぇ千尋、アイスでも食べない?」 「うん、いいよ。」 にほんブログ村

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