JEWEL

2015/01/06(火)16:02

琥珀の血脈 第23話

完結済小説:琥珀の血脈(137)

年に一度行われるグランドレースの日だけあって、ロイヤル競馬場への道は午前中でも渋滞していた。 「行くまでに道が混んでいるのに、競馬場に入るまでまた時間がかかりそうですね。」 「心配することはないよ。我が家はいつもグランドレースの日には特別席を確保しているからね。」 「そうですか・・」 千尋はなかなか進まない車列を窓の外から眺めていると、突然誰かが車の窓を叩く音がした。 窓の方を見ると、そこには10歳くらいの襤褸を纏った少年が籠に入った果物を抱えていた。 「この季節となると、観光客狙いでこの界隈に来る物乞いが多いんだよ。無視すればいい。」 「はぁ・・」 千尋は車の窓を必死に叩く少年から視線を外すと、隣に座っている歳三の方を見た。 彼は険しい表情を浮かべながら助手席に座る父親の方を睨んでいた。 「漸く着いたな。」 一時間くらい止まっていた車列が動き出し、千尋達を乗せたカイゼル家の車は上流階級専用の駐車場に優先的に案内された。 「いらっしゃいませ、将軍閣下。お席にご案内いたします。」 千尋達が車から降りると、支配人と思しき男がカイゼル将軍に向かって恭しく頭を下げた。 彼らは一般席の入り口とは違う上流階級専用の入り口から競馬場内に入り、エレベーターで特別席へと向かった。 「こちらでございます。」 「案内してくれて有難う。」 慣れた手つきで支配人にチップを渡したカイゼル将軍は、そう言って窓ガラス越しにパドックを見た。 「ちょうど腹が減っている頃だろうから、好きな物でも取ってきなさい。」 「わかりました、お父様。」 エミリーとともに千尋達が特別席の近くにある料理が並べられているテーブルへと向かうと、そこには貴族の令嬢とご婦人と思しき数人の女性達が料理を皿に取っていた。 「あら、エミリー様。」 「あらレイチェル様、御機嫌よう。あなたもいらしていたのね?」 「ええ。年に一度のレースですもの。あら、そちらの方はどなたかしら?」 ブルーのワンピースを着た黒髪の令嬢は、そう言って千尋の方を見た。 「こちらはわたくしの兄の、士官学校の後輩で、チヒロさんとおっしゃるのよ。」 「初めまして、チヒロ様。わたくしはレイチェルと申します。」 「こちらこそ初めまして。」 千尋はそう言うと、レイチェルと握手を交わした。 「そろそろレースが始まりますわね。」 「ええ。」 「チヒロ様は、このような場所においでになるのは初めてですの?」 「さぁ・・前に一度来たことがあるような気がありますが、余り覚えていません。」 「まぁ、そうですの・・では、わたくしはこれで失礼いたしますわ。」 レイチェルはそう言って千尋に頭を下げると、家族が待つテーブルへと向かった。 「何だか料理が多すぎて、何を食べていいのか迷っちゃうな・・」 「ここのレストランは、サンドイッチが美味しいんですよ。」 「へぇ、そうなんだ。」 エミリーと千尋がそんな話をしていると、特別席に派手な羽根飾りをつけた帽子を被った一人の女性が入って来た。 「あら、下品な方がいらっしゃったわ。」 「本当ね。」 奥のテーブルに座っていた女性達がわざと帽子の女性に聞こえる様な声でそう言った後、クスクスと笑った。 にほんブログ村

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