夏季休暇を終え、歳三と千尋は寄宿学校がある南部へと戻ることになった。
「お兄様、次にお会いするときはクリスマス休暇ね!」
「ああ。それまで、元気にしているんだぞ。」
「わかったわ。」
二人を見送りに来たエミリーは、そう言うと彼らに手を振った。
「楽しい夏休みでしたね。」
「ああ。千尋、エミリーと時々会ってやってくれ。あいつにとって、お前は実の姉のような存在だからな。」
「わかりました。」
二人が乗った列車が発車しようとしたとき、プラットホームにクラウスが現れた。
「よかった、ギリギリで間に合った。」
「先輩、何か俺達に用ですか?」
「ああ。レイチェルからこの手紙を預かって来た。二人とも、縁があったらまた会おう!」
「レイチェルさんに宜しく!」
南部へと向かう列車の中で、歳三はレイチェルが自分に宛てた手紙を読んだ。
「何て書いてありました?」
「別に。今度来るときは、是非我が家へご滞在くださいとだけ書いてあったよ。それにしても千尋、お前はレイチェルと何かトラブルでもあったのか?」
「え?」
「昨日、あいつの見舞いに行ってみたんだが、あいつの取り巻きからお前とあいつが揉めているっていう話を聞いた。何かあったのか?」
「少し、誤解があって・・」
レイチェルから、自分が入院中歳三を譲って欲しいと言われたことを、千尋は歳三に言えなかった。
「女同士の付き合いは色々と面倒なことが多い。嫌なら別に言わなくていいさ。」
「すいません・・」
「謝るな。」
歳三はそう言うと、そっと千尋の手を握った。
「なぁ千尋、お前士官学校を卒業したらどうするつもりだ?」
「まだ卒業後の進路は決めていませんが、出来る事なら軍隊に入りたいと思っています。」
「そうか。軍隊は男社会だ、最近では女性兵士の活躍が目立ちつつあるものの、女が軍隊に入らないほうがいいっていう考えの奴が軍隊には多い。」
「それは、噂で聞いています。ですが、性別で軍隊に入隊することを諦めるなんて、俺には出来ません。」
千尋がそう言って歳三を見ると、彼は口端を歪めて笑った。
「何がおかしいんですか?」
「お前のその根性の強さ、気に入ったぜ。」
「何をいまさら・・」
二人を乗せた列車がトンネルを抜けている頃、リティア市内にあるグラーシュ邸では、レイチェルの退院祝いのパーティーが行われていた。
「ご退院おめでとうございます、レイチェル様。」
「わたくしの為にパーティーに集まってくださって、有難う皆さん。」
美しいドレスと宝石で着飾ったレイチェルは、自分の為に集まってくれた招待客達に愛想笑いを浮かべた。
「お兄様、トシゾウ様はどちらに?」
「あいつなら、もう士官学校へ帰ったよ。」
「何ですって!?お兄様にちゃんと、パーティーの招待状をお渡しした筈ですわ!」
「レイチェル、お前がどんな手を使っても、トシはお前のものにはならないよ。」
「どういう意味ですの?」
「言葉通りさ。」
クラウスは妹の肩を軽く叩くと、友人達の元へと向かった。
「レイチェルお嬢様、旦那様がお呼びですよ。」
「今行くわ。」
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