「レイチェル、婚約おめでとう。」
「有難う。」
レイチェルはそう言いながら、千尋が着ているドレスを観察した。
千尋のドレスは白薔薇をあしらった白いドレスを纏っており、裾には蒼いひだ飾りと、薔薇の飾りがついていた。
自分の華やかなデザインのドレスとは違い、千尋のそれは地味なものだったが、何故か千尋がレイチェルの目には美しく見えた。
「レイチェル様、ご婚約おめでとうございます。」
「有難う、皆さん。来てくださったのね。」
友人達に気づいたレイチェルは、千尋を無視して彼女達の方へと向かった。
「今レイチェル様がお召しになっているドレス、とても素敵よ。」
「今夜のパーティーの為に、特別に誂えたものなの。」
「まあ、だからレイチェル様によく似合っていらっしゃるのね。」
「ねぇレイチェル様、結婚式は何処でなさるの?」
「さぁ・・それはトシゾウ様と相談しないと、決められませんわ。」
レイチェルが友人達と結婚式の事を話していると、楽団がワルツの曲を奏でた。
「トシゾウ様、わたくしと踊っていただけませんこと?」
レイチェルがそう言いながら歳三の方へと向かうと、彼は千尋と踊っていた。
(どうして、トシゾウ様?今夜の主役はわたくしなのに!)
主役である自分を蔑ろにして、千尋と踊る歳三の姿は、まるで一幅の絵画を見ているようで美しかった。
「何だか、お似合いねぇ、あの二人。」
「ええ。あれが、トシゾウ様のフィアンセなのかしら?」
レイチェルの近くに居た貴婦人達の会話を聞いたレイチェルは、怒りで扇子を握り潰しそうだった。
「どうしたの、レイチェル?」
「少し気分が優れないので、外の空気を吸ってくるわ。」
友人達にそう言うと、レイチェルはドレスの裾を摘まんで中庭へと出た。
「先輩、レイチェルちゃんの事を放っておいていいんですか?」
「別にいいんだよ。あいつは女同士で色々と楽しんでいるだろうさ。」
歳三は千尋と踊りながら、そう言って彼女の頬に唇を落とした。
「それじゃぁ、またあとで。」
「ええ。」
歳三とワルツを踊った後、千尋はライトアップされた中庭へと向かった。
そこには人工的な光を受け、色とりどりの薔薇が美しく咲き誇っていた。
「綺麗・・」
「チヒロさん、こんな所に居たのね。」
池に浮かんでいる睡蓮を千尋が眺めていると、そこへレイチェルが現れた。
「さっきのワルツ、とても楽しそうに踊っていたわね。主役のわたくしを蔑ろにして、嬉しかった?」
「俺は、そんなつもりで踊った訳じゃ・・」
「さっさとわたくしの前から消えて頂戴、目障りなのよ!」
レイチェルは激情に駆られ、千尋を池の中に突き落とした。
千尋が池から上がろうとすると、レイチェルが彼女の頭を押さえこんだ。
「あなたなんて、ここで死ねばいいのよ!」
「レイチェル、そこで何をしているんだ!」
「お兄様・・」
突然ランプの眩しい光に照らされたレイチェルが慌てて両手で顔を覆うと、そこには使用人達を連れたクラウスの姿があった。
「お兄様、これは・・」
池の中でもがいている千尋の姿を見たクラウスは、タキシードのまま池の中に飛び込んだ。
「早く医者を呼べ!」
「はい!」
大量の水を飲み、兄の腕の中で気絶している千尋の姿を見て、レイチェルは自分がとんでもない事をしてしまったことに気づいた。
「ごめんなさい、わたくし殺すつもりじゃなかったの。」
「話は後で聞こう。」
クラウスは千尋を抱きかかえると、使用人達とともに中庭を後にした。
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