「伯母様、こちらにいらしたのですか?」
「戻って来て遅くなって済まなかったな、エミリー。」
凛とエミリーが談笑していると、そこへ歳三とトムがやって来た。
トムは凛の胸元に輝くブローチを見た瞬間、自分が十年間歳三達を騙してきたことが無駄になることを恐れ、あることを企んでいた。
「伯母様、そちらの綺麗なお嬢様は、どなたですか?」
「この子はリン、娘の命の恩人なの。リン、この子はわたしの甥っ子の、凛よ。」
「初めまして・・」
凛はトムと目が合ったとき、彼が冷たい目で自分を睨んでいることに気づいた。
「リン、待たせてごめんなさいね。」
「いいえ。アンジュお嬢様、今日は素敵なパーティーにお招きいただいて有難うございました。そろそろ失礼いたします。」
「そう。それじゃぁ、わたくしの部屋に行きましょう。」
トムは二階へと上がっていくアンジュと凛の背中を睨んでいた。
「あら、もう帰っちゃうの?」
「ええ。余り遅いとみんなが心配するので、これで失礼します。」
「また来てねぇ、待っているわ。」
ドレスからフロックコートに着替えた凛は、アンリとアンジュに手を振り、裏口から外に出た。
「ただいま。」
「どうだった、貴族のお嬢様は手作りのプレゼントは気に入ってくれたか?」
「うん。」
「リン、今日はもう遅いから化粧落として早く寝ろよ。」
「わかった。」
帰宅した凛は、シャワーを浴びて化粧を落とした後、ベッドに入って眠った。
「アンジュ、もう今夜は遅いからお休みなさい。」
「はい、お母様。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
エミリーが寝室から出て行った後、アンジュがベッドに入ろうとすると、ベッドの床に凛がつけていたブローチが転がっていた。
(これはあの子の大切な物だから、明日あの子に返そう。)
翌朝、凛は帰る時にバッグに入れていた筈のブローチがないことに気づいて慌てた。
「どうした、リン?」
「ブローチが、お母さんの形見のブローチが何処にもないんです!」
「何だって!? ちゃんとよく探したのかい?」
「はい。」
「落ち着いて昨夜の事を思い出してごらん。何処かでブローチを落としたのかもしれないよ。」
半狂乱になる凛に、アベルはそう言って彼を落ち着かせた。
一方、トムはどうすれば凛からあのブローチを奪おうかと企んでいた。
その時、アンジュがエミリーと外出しようとしているのを見て、彼女達に声を掛けた。
「アンジュ姉様、どちらへ行かれるのですか?」
「これからお茶会に行くのよ。トム、悪いけれど留守番お願いね。」
「わかりました。」
トムは二人が出かけるのを確認した後、アンジュの寝室に入った。
そして彼は、ベッドのサイドテーブルにあのブローチが置かれていることに気づいた。
幸運の女神は、自分に微笑んだのだ―トムは薄笑いを浮かべながら、そのブローチを手に取った。
「お父様、入っても宜しいですか?」
「ああ。」
歳三は、書斎に入って来たトムが胸にあのブローチをつけていることに気づいた。
素材提供:素材屋 flower&clover様
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