「あなた達、そこで何をしているの?」
凛と青年が睨み合っていると、そこへエカテリーナが通りかかった。
「女官長様、彼がわたし達に一方的に暴力を振るおうとしたんです!」
「まぁ、あなたは確か・・」
「ふん、興が削がれたな。」
青年は舌打ちすると、東屋から去っていった。
「女官長様、危ない所を助けていただいて有難うございました。」
「あんな人に絡まれるなんて、あなたも災難だったわね。」
エカテリーナはそう言うと、溜息を吐いた。
「女官長様は、あの方をご存知なのですか?」
「ええ。あの人は、以前宮廷で暴力沙汰を起こしたハロルズ一族の道楽息子よ。まさか、まだ宮廷に出入りしているなんて思わなかったわね。ところであなた達は、一体ここで何をしていたの?」
「皇太子妃様の誕生祝いに、踊りを披露しようと思いまして、その練習をしておりました。」
「まぁ、そうだったの。」
エカテリーナはそう言うと、そのまま東屋を後にした。
「もっと僕達に絡んでくるのかと思いましたが、何だかあっさりと引き下がられましたね。」
「女官長様の事は放っておいて、練習に戻りましょう。」
「ええ。」
二人が練習に励んでいる頃、女官達は一週間後に控えているシャルロッテの誕生日パーティーへの準備に慌ただしく動いていた。
「まったく、新入りの二人は一体どこで油を売っているのかしら?」
「本当よね!あの子達、わたし達のことを格下に見ているのよ!」
「おやめなさい、あなた達。口を動かしている暇があるのならば、手を動かしなさい!」
凛とアンジュの陰口を叩いている部下に向かってエカテリーナがそう叱責すると、彼女達は不満そうな顔で自分の持ち場へと戻った。
「遅れて申し訳ありませんでした。」
「あなた方、踊りの練習に忙しいのはわかるだろうけれど、他の皆さんにご迷惑を掛けてはいけませんよ。」
「はい、肝に銘じます。」
アンジュと凛は、エカテリーナから叱責され、彼女に向かって深く頭を下げた。
「アンジュ、凛、皇太子妃様がお呼びですよ。」
「わかりました、すぐに行きます。」
二人がシャルロッテの部屋のドアをノックすると、中からエカテリーナが出てきた。
「二人とも、そこにお掛けなさい。」
「はい。皇太子妃様、わたくし達に何の用でしょうか?」
「エカテリーナから、あなた達が変な男に絡まれた話は聞きましたよ。二人とも災難でしたね。」
「皇太子妃様は、あの方をご存知なのですか?」
「わたくしとハロルズ一族とは姻戚関係にあります。とはいっても、あなた方に暴力を振るおうとした男とは余り親しくなかったわね。」
シャルロッテはそう言葉を切ると、ソファから立ち上がった。
「わたくしの誕生日パーティーの準備でこれから色々と忙しくなるけれど、体調管理はしっかりとなさってね。」
「わかりました、皇太子妃様。わたくし達はこれで失礼いたします。」
一週間後、シャルロッテの誕生日パーティーが王宮内で華々しく開かれた。
「皇太子妃様、お誕生日おめでとうございます。」
「有難う。あの二人の姿が見えないわね?」
「あの二人なら、色々と忙しく動き回っておられるのでしょう。」
エカテリーナがそう言ってシャルロッテの方を見た時、急に会場が暗くなった。
素材提供:Little Eden様
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