「そなた、孤児院の火事は知らぬと先ほどわたしに話していたことは嘘だったのか?」
「そ、それは・・」
トムはそう言うと、皇帝から目を逸らした。
「陛下、聖マリア孤児院を男達に命じて放火していたのは、あなたの隣に居る少年です。その少年は、貧しく卑しい境遇から這い上がる為にあなた様を騙し、偽りの身分を手に入れたのです!」
「僕はただ、貴族になりたかっただけだ! それを望むことが、何かの罪になるのか?」
「貴族になりたいと願うお前の気持ちは罪にはならない。だが、お前は凛の家族と身分を奪い取った。他人の物を盗むのは、れっきとした犯罪だ!」
アレックスの言葉を聞いたトムは、大理石の床に蹲った。
「陛下、許してください、僕は・・」
「連れて行け。」
皇帝は、冷たい目でトムを睨んだ後、彼の胸元につけているブローチを乱暴に剥ぎ取った。
「よくもわたしを騙してくれたな、その罪は重いと思え。」
「嫌だ、離せ~!」
近衛隊に連行されていくトムの姿を、エリザベートを含む貴族達は冷ややかな目で見つめていた。
「エリザベート、そなたを一瞬でも疑ってしまったことを恥じてしまったわたしを許してくれ。」
「陛下、お顔を上げてください。」
エリザベートは凛とともに皇帝の前に立った。
「皇帝陛下、お初にお目にかかります、リンと申します。」
「そなたが、マリアの子。」
皇帝はそう言うと、凛を慈愛に満ちた目で見つめた。
「リンよ、そなたは今何を望む?」
「僕の望みは、実の父と会うことです。それ以外、何も望みません。」
「そうか。」
歳三が皇帝の元へと向かうと、そこには自分と同じ紫の瞳をした少年が立っていた。
「トシゾウ、そなたの子だ、抱き締めてやれ。」
「凛・・」
「お父さん!」
こうして凛と歳三は、16年もの時を経て再会を果たした。
「会いたかった、ずっと・・」
「俺もだ、凛。」
歳三はそう言うと、涙を流した。
「凛、お前はこれからどうしたいんだ?」
「僕はお父さんと一緒に暮らしたいです。お父さんは、どうしたいのですか?」
「俺はお前と同じ気持ちだ。」
歳三はそっと凛の手を握ると、彼に優しく微笑んだ。
舞踏会から一週間が過ぎた頃、歳三と凛はウロボロス市内の教会に来ていた。
「お母さん、お父さんを連れてきたよ。」
母・千尋の墓の前で凛はそう言うと、薔薇の花束を墓の前に供えた。
千尋が死に、父を捜すために長い旅をしてきたが、その旅はもうすぐ終わりを告げる。
「千尋、凛を生んでくれて有難う。お前に会えなかったのは辛かったが、これから凛と仲良く暮らすから、天国から見守ってくれ。」
歳三は千尋の墓にそう語りかけ、凛の左手薬指に嵌められた千尋の指輪をそっと撫でた。
「もう行きましょうか?」
「ああ、わかった・・」
千尋の墓参りをした二人は、ある場所へと向かった。
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