オーロラ一座のテントは、今夜の公演に向けての準備で、団員たちは忙しく働いていた。
「お前ら、もっとキビキビ動け!」
「カイル、久しぶりだね。」
「リン、久しぶりだな。元気そうでよかった。」
カイルはそう言うと、凛に向かって微笑んだ。
「そうか、お父さんの所で暮らすことになったのか。じゃぁ俺達ともお別れだな。」
「うん。寂しいけれど、またカイルたちと会えるよね?」
「ああ。そうだ、お前に渡したい物があるんだ。」
カイルはそう言うと、ポケットの中から指輪を取り出した。
「安物の指輪だけれど、俺からのプレゼントだ。」
「有難う、大事にするね。」
「お父さんと仲良く暮らせよ。」
カイルとテントの前で別れた凛は、歳三と共にリティアへと戻った。
「お父さん、僕ちゃんとお祖父様に挨拶できるかなぁ?」
「大丈夫だ。」
カイゼル公爵邸に入った凛は、祖父の書斎のドアをノックした。
「入れ。」
「失礼いたします、お祖父様。」
「お前がリンか・・あいつと同じ顔をしているな。」
カイゼルはそう言うと、凛の頬を撫でた。
「わたしが意地を張った所為で、お前から母親を奪ってしまったな。お前には、悔やみきれんことをした・・」
「僕は一度も、あなたを恨んだことなどありません。だから顔を上げてください、お祖父様。」
その日の夜、カイゼル公爵家では凛を歓迎するパーティーが開かれた。
「リン、これからはずっと一緒に暮らせるわね。」
「ええ。アンジュ様、改めて宜しくお願いいたします。」
「こちらこそ、宜しくね。あなたとわたしは従兄妹同志なのだから敬語は不要よ。」
「はい。」
アンジュと凛が楽しそうに話している姿を見ながら、歳三はシャンパンを一口飲んだ。
「これから賑やかになりそうね、お兄様。」
「ああ。」
「リンは本当に、チヒロ姉様にそっくりね。」
凛がカイゼル公爵家で暮らし始めてから、1年が経った。
彼は歳三と共に、歳三の母の故郷である日本へと向かうことになった。
「リン、気を付けて行って来てね。」
「はい、叔母様。」
「じゃぁ、行ってくる。」
旅立ちの日の朝、車に乗り込む歳三と凛を玄関ホールで見送ったエミリーは、彼らが乗った車が見えなくなるまで手を振った。
「お父さん、日本ってどんな所かな?」
「さぁな。俺は日本には一度も行った事はないが、きっと楽しい所だろう。」
歳三はそう言うと、紫紺の瞳を煌めかせた。
~完~
にほんブログ村