初めて会う斎藤の義母に、総司は嫌な予感がした。
「あなたが、一とお付き合いしている方なのね。」
義母の視線が、総司の左手薬指に嵌められている指輪へと移った。
「言っておきますけれど、あなたと一との関係を認めませんわ。だってこの子には許婚が居るんですから。」
「そのお話はお断りした筈です、義母上。」
一はそう言って義母を睨み付けると、総司の手を握った。
「あなたは黙ってなさい、一。あなたは斎藤家の後継者なのですよ。総司さん、一と婚約したからって良い気にならないでくださいね。」
一の義母は一方的にそう言うと、さっとリビングから出て行った。
「済まない、義母が失礼な事をした。」
「いいんだ。それよりも一君、実家への挨拶は・・」
「あの女の反応を見ただけで充分だ。総司、俺は何があってもお前の手を離さない。それだけは信じてくれ。」
一はそう言って総司を見ると、彼は一に微笑んだ。
「信じてるから、一君のこと。」
総司は一の手を握り、彼とどんなことでも乗り越えようと思った。
実家を後にした一と総司は、ラジオ番組の収録や雑誌のインタビューなど、分刻みの多忙なスケジュールを終え、ホテルの部屋に戻るなり2人はベッドに倒れ込んだ。
「一君、もう遅いから・・」
「愛している、総司。」
一はそう言うと、総司の服を剥ぎ取った。
彼の白い肌には、鬱血した痕が首筋から腹部にかけて続いていた。
(あの・・野郎!)
ギリリと唇を噛み、一は総司を犯した男が誰なのか見当がついた。
あのパーティーの夜、総司を無理矢理自分から引き離し、彼とタンゴを踊った男だ。
(許さない・・総司をこんな目にあわせて!)
「一・・君?」
一の美しい顔が怒りに引き攣っていることに気づいた総司が、彼の頬を撫でると、一はそっと総司の髪を梳いた。
「昨夜の男に、やられたんだな?」
「大丈夫だから。」
一は総司の唇を塞ぎ、唇で彼の首筋や乳首を愛撫した。
「うぅ・・」
「痛いか?」
「ううん。もっとして・・」
総司はそう言うと、一の背中に手を回した。
「本当に、いいんだな?」
総司は一の言葉に頷き、彼に身を委ねた。
総司は自分とは違った美しさを持った青年だ。
背中まである薄茶の髪に、黒曜石のような美しい瞳。
そして何よりも、他者を優しく包み込むかのような性格が、一は好きだった。
こんなに綺麗な総司が、あんな乱暴な男に犯されたのかと思うと、一は彼への怒りで視界が赤く染まりそうだった。
「あぁ、そんなに激しくしないで・・」
「愛している、総司。愛してる!」
一の激しい突き上げに、総司は思わず一の背中に爪を立てた。
―総司、俺はお前だけのもんだ。
遠くで聞こえる、誰かの声。
―絶対にお前を死なせはしねぇ。
(誰・・誰なの?)
あの声は一体誰なのだろうか。
何処か懐かしいような。
「総司、辛かったか?」
「ううん。」
我に返った総司は、一の胸に顔を埋めながら眠りに落ちた。
翌朝、総司と一がホテルのロビーへと下りると、1組のカップルが彼らの前を通り過ぎた。
(歳三兄ちゃん・・)
男の方は、自分を犯した歳三だった。
「トシ、この子知り合いなの?」
歳三の腕に自分の腕を絡ませていた女性が、そう言って値踏みするかのように総司を見た。
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.06.07 15:07:47
コメント(0)
|
コメントを書く
もっと見る