JEWEL

2015/11/18(水)15:06

蒼―lovers―玉 96

完結済小説:蒼―lovers―玉(サファイア)(300)

『タマキ、起きているか?』 ドア越しに聞こえたのは、ヨハンの声だった。 『ヨハン様、どうかなさいましたか?』 夜着の上に上着をはおり、髪を三つ編みに纏めた環が部屋のドアを開けると、ヨハンがなだれ込むようにして部屋に入って来た。 『今、お水を・・』 『いや、いい。』 ヨハンはそう言った後、近くのソファに座った。 『一体何があったのですか、そんなに慌てた様子で?』 『ハンガリーで暴動が起きた。』 『それは、確かなのですか?』 ハンガリーでは、オーストリアからの独立を望む者達がブタペストでたびたび騒ぎを起こしていると、環は新聞で知っていた。 『それで、ルドルフ様はどうなされているのですか?』 『あいつなら、閣議室で閣僚達と今後の事を話し合っている。』 『そんな、風邪をお召しになっているのに・・』 『あいつは俺がちゃんと監視しておくから、お前はゆっくり休んでいろ。』 『はい。』 『ルドルフからお前に伝言だ。“わたしの事よりも自分の身体を労わる事に専念しろ。”とな。お前が風邪をひいたのは自分の所為なのに、それを棚に上げるとは、いちいちムカつく野郎だ。』 『それでも、ヨハン様はルドルフ様の事が心配で堪らないのですよね?』 『それは本人に絶対言うなよ?また俺を揶揄う材料が増えたとあいつが大喜びするのが目に見えているからな。』 『わざわざ伝言に来てくださって有難うございます。ルドルフ様には宜しくとお伝えください。』 『わかった。それじゃぁ、失礼する。』 ヨハンが部屋から去った後、環は寝室に戻って寝ようとしたが、目が冴えてなかなか眠れなかった。 針箱をクローゼットから取り出した環は、針箱の蓋を開け、救護院の女の子達に贈るリボンに刺繍を施し始めた。 最後の一本に刺繍を施し、環が俯いていた顔をゆっくりと上げて窓の方を見ると、東の空から朝日が昇っていた。 「環ちゃん、調子はどうだい?」 「少し横になったら良くなりました。姐さん、わざわざお見舞いに来てくださって有難うございます。」 「いいんだよ、礼なんて。それよりも、目の下に隈が出来ているよ。まさか、昨夜は一晩中寝ていないんじゃないだろうね?」 「はい。ハンガリーで暴動が起きたと聞いて、ルドルフ様の事が心配で眠れませんでした。」 「そうかい。救護院の女の子達に贈るリボンはもう出来たのかい?」 「はい。姐さん、救護院の子供達はどうしていますか?」 「あんたが風邪で寝込んだって聞いて、千羽鶴を折っているよ。あたしが折り方を教えたら、子供達夢中になって百羽くらい折ってさ、早くあんたに元気になって欲しいって言っていたよ。」 「そうですか・・じゃぁ、早く良くならないといけませんね。」 「あんたがどうにもできないことでくよくよ悩んでいたって、仕方がない事だよ。今は身体を休めろと、神様がおっしゃっているのさ。」 「はい。」 完成したリボンを小春に渡した後、寝室に戻った環は再び寝台の中に横たわると眠った。 その頃、ルドルフは閣議室で閣僚達と今後の対応について話し合っていた。 『父上、いずれブタペストで暴動が起きると思っておりました。』 『ルドルフ、お前はこれからどうするべきだと思うのだ?』 『わたしがブタペストへ赴き、現地の様子を確認して参ります。』 ルドルフがそう言ってフランツを見た時、ルドルフは激しく咳込んだ。 『ルドルフ、お前はまだ本調子ではないから、無理をするな。』 『大丈夫です。父上、わたしをブタペストへ行かせてください。』 『解った、許す。だが、くれぐれも無理はするなよ。』 『有難うございます、父上。』 ルドルフはそう言うと、フランツに深々と頭を下げた。 にほんブログ村

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