「わたしの本当のお母様が亡くなったのだと、お父様はおっしゃったけれど、わたしの本当のお父様は誰なの?」
「わたしだ。」
「静さん、本当なの?今お父様がお話しした事は・・」
「申し訳ありません、菊お嬢様。奥様と旦那様から、時期が来たらお嬢様にお話しするよう口止めされておりました。」
静は申し訳なさそうな顔をしてそう言うと、俯いた。
「お父様、話の続きを聞かせて。」
「ああ、解った。」
ルドルフは、菊の実母と一夜の過ちで彼女と関係を持ってしまい、それが原因で彼女が死んでしまった事を話した。
「どうだ、これでお前の両親が血も涙もない鬼畜だということが解ったろう?」
自分の首筋にナイフを押し当てた男は、そう言うと勝ち誇ったような笑みを口元に浮かべた。
「お前は、俺と一緒に来い。お前の本当の両親に会わせてやるよ。」
「わたしを馬鹿にしないで!」
菊はそう叫ぶと、男の足の甲を踏みつけた。
男が悲鳴を上げ、自分から離れた隙に、菊はルドルフの胸元へと飛び込んだ。
「キク、怪我はないか?」
「ええ。お父様、警察を呼んで。」
「ああ。」
「畜生、警察なんか呼ばれて堪るか!」
男はそう怒鳴ってルドルフを睨みつけ、彼に襲い掛かった。
その時、静が暖炉の傍に置かれていた火掻き棒を掴んで男の脛を強かに打った。
「旦那様とお嬢様に手を出したら、このわだしが許さねぇ!」
「やりやがったな、このアマ!」
激昂した男が血走った目で静を睨みつけた時、居間に数人の警察官達がなだれ込んできた。
「お巡りさん、この男を捕まえてください!」
「何をしやがる、離せ!」
「大人しくしろ!」
「俺はこいつに警告しようとしただけだ!」
「警告だと?」
ルドルフがそう言って男を睨むと、男もルドルフを睨み返してきた。
「お前の会社は、いずれ倒産する。その時は路頭に迷わないようにするんだな。」
「お前の警告を聞く迄もなかったな。さっさと失せろ。」
嵐のように男が警察官達に連れられて居間から出て行った後、菊と静は放心したような様子でソファに座り込んだ。
「二人とも、大丈夫か?」
「ええ。お父様、わたしは真実を知っても、お父様から離れたりはしないわ。」
菊はそう言うと、ルドルフに抱きついた。
「有難う、キク。お前はわたしの、大切な娘だよ。」
新聞で長谷川商会と政界の癒着問題が報じられてから数日が経ち、社長の直樹が癒着疑惑は事実無根である事を記者に話し、癒着を裏付ける証拠もないことから、長谷川商会の癒着疑惑は晴れた。
「良かったですね、疑惑が晴れて。一時はどうなることかと思いました。」
「ああ、そうだな。静さん、うちに押し入って来た男の正体は判ったかい?」
「ええ。彼の名前は山田邦昭といって、あの家に雇われた者でした。」
「あの家?」
「幸様を死においやった、信孝様が山田の雇い主だったのです。」
「あいつが、何故今更になってわたし達を狙うんだ?」
「さぁ・・用心しておいた方がよさそうです。」
「そうだな。キクはまだ部屋で寝ているのか?」
「はい。あんな騒ぎがあった後ですから、暫く学校はお休みさせた方が宜しいのではないでしょうか?」
「解った。学校にはわたしから連絡をしよう。では静さん、留守を頼むよ。」
「行ってらっしゃいませ。」
玄関ホールで出勤するルドルフを見送った静は、菊の部屋へと向かった。
「おはよう、静さん。お父様はもう会社の方へ行かれたの?」
「はい。お嬢様、朝食はどうなさいますか?」
「一緒にいただきましょう。」
ダイニングルームで菊が静と共に朝食を食べていると、玄関のドアが誰かに荒々しく叩かれた。
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