「アンダルス様、漸くお目覚めになられたのですね。」
「ミランダさん・・俺、どうして?」
「森の中にある洞窟で、あなたが倒れているのを見つけたのよ。腰の怪我はどう?」
「少し痛むけど、大丈夫です。」
アンダルスがそう言ってミランダを見ると、彼女は安堵の表情を浮かべて彼の部屋から出て行った。
「どう、あの子の様子は?」
「腰に少し痛みが残っていると言っていましたが、あの様子だと大丈夫そうですわ。」
「そう、よかった。ねぇミランダ、例の噂の事で、何か聞いていない?」
「いいえ。ですが、その噂を流した者が誰なのかをアンダルス様が社交界デビューなさる前に突き止めなければなりませんわね。」
「そうね。」
ビュリュリー伯爵夫人とミランダがそんな話をしていると、二人の元へ女中がやって来た。
「奥様、お客様がいらっしゃっています。」
「わたくしにお客様ですって、どなたかしら?」
「ガブリエル=ローゼンフェルト様とおっしゃる方です。アンダルス様のお見舞いに来たと・・」
「客間にお通しして頂戴。」
「はい、かしこまりました。」
女中は二人に背を向け、玄関ホールで待っているガブリエルの元へと戻った。
「奥様がお会いになられるそうです。客間へご案内いたします。」
「解った。」
ガブリエルが女中と共に客間へと向かう途中、彼は中庭でアンダルスの父・ユーリスが一人の女性と話している姿を見た。
その女性に、ガブリエルは何処か見覚えがあった。
(あの女、何処かで会ったような・・)
「どうぞ、こちらです。」
我に返ったガブリエルが女中と共に客間に入る前、ユーリスが件の女性と抱き合っていた。
「暫くこちらでお待ちくださいませ。何かお飲み物はいかがですか?」
「コーヒーを頼む。」
「かしこまりました。」
女中はそう言ってガブリエルに向かって頭を下げると、客間から出た。
数分後、ビュリュリー伯爵夫人が客間に入って来た。
「ガブリエルさん、わざわざアンダルスのお見舞いに来てくださって有難う。あの子は今、自分の部屋で休んでいるの。」
「そうですか。では、これを彼に渡してください。彼の怪我が早く治る事を祈っています。」
ガブリエルはビュリュリー伯爵夫人に、アンダルスが気に入っているチョコレート専門店の紙袋を手渡した。
「まぁ、有難う。必ずアンダルスに渡しますわ。ねぇガブリエルさん、ひとつお願いしたいことがあるのだけれど・・」
「何でしょうか、奥様?」
「アンダルスの出生について、最近おかしな噂が広まっている事をご存知?」
「ええ、存じておりますよ。根も葉もない悪意ある噂をばら撒く人間は、厄介なものですね。その噂とは、どのようなものなのですか?」
「何でも、アンダルスは呪われた一族の末裔だとか。アンダルスの耳に入る前に、その噂を流した者が誰なのかを突き止めてくださらないこと?」
「奥様の頼みならば、快く引き受けましょう。この事は、アンダルスには・・」
「あの子には話さないで。ガブリエル、わたしはアンダルスを何としてでも守りたいの。あの子は、わたしの大事な宝だもの。」
「それは、わたしも同じです、奥様。」
ガブリエルはそう言うと、ビュリュリー伯爵夫人の手を握った。
「では、これで失礼いたします。」
「わざわざ来てくださって有難う。」
玄関ホールでビュリュリー伯爵夫人に見送られたガブリエルが伯爵邸を後にしようとした時、彼は突然背後から誰かに腕を掴まれた。
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