満韓楼へと戻った千代乃が自室で読書をしていると、ファヨンがやって来た。
『女将さん、こんな物がチョンジャの部屋から見つかりました。』
そう言ってファヨンが千代乃に見せたものは、千代紙に包まれた阿片の粉末だった。
『一体、どうしてこんな物がチョンジャの部屋に・・』
『最近、チョンジャが誰にも行き先を言わずに夜中へ出掛けていることを知っています。』
『そう・・ファヨンさん、良く知らせてくれたわね。この件は誰にも口外しないで。』
『解りました。』
ファヨンが部屋から去った後、千代乃は彼女から渡された阿片の粉末を見た。
『ユニョク、居る?』
『はい、女将。』
外に控えていたユニョクは、影のようにするりと部屋に入って来た。
『少し調べて欲しい事があるのだけれど、いいかしら?』
『はい。』
『この阿片が何処から流れてきたのかを、調べて欲しいの。』
『解りました。数日留守にする事になるかもしれませんが、構いませんか?』
『構わないわ。』
『女将、そろそろ支度をいたしませんと・・』
『解ったわ。ユニョク、くれぐれも気を付けてね。』
『はい。それでは、行って参ります。』
ユニョクが部屋から出て行った後、千代乃は湯浴みをする為に浴室へと向かった。
浴室から上がって千代乃が髪を乾かしていると、千代乃は外から強い視線を感じた。
脱衣所の窓を開けて外を見たが、そこには誰も居なかった。
(気の所為ね・・)
その日の夜、哈爾浜市内のホテルで開かれたパーティーに出席した千代乃は、そこでジニの義母と会った。
『あら、奇遇ね。貴方がこのような場所に居るなんて。』
『まぁ奥様、お久しぶりでございます。』
千代乃が愛想笑いを浮かべながらジニの義母に挨拶をすると、彼女は不快そうに鼻を鳴らして千代乃に背を向けた。
『相変わらず、無愛想な女ね。』
『女将さん、気にする事ないですよ。』
『チョンジャは何処に行ったの?』
会場にチョンジャの姿がない事に気づいた千代乃がそう言うと、妓生達は何処か気まずそうな様子で俯いた。
『何かあったの?』
『実は先ほど、チョンジャが警察に連行されました。何でも、別れた男と口論になって殴り合いの喧嘩をしたみたいで・・』
『そう、彼女は今何処に居るの?』
パーティーが終わり、千代乃はファヨンと共にチョンジャが連行された警察署へと向かった。
『女将さん!』
警官に連れられたチョンジャの顔には、男に殴られた時に出来た青あざが残っていた。
『チョンジャさん、一体何があったの?わたしに解るようにちゃんと説明して頂戴。』
『わたしは何も悪くないんです、それなのにあの男が勝手にわたしを犯罪者扱いして留置場へぶち込んだんです!』
怒りで興奮したチョンジャは、警察署へ連行されるまでの経緯を千代乃に話し始めた。
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