第二部
『可愛げのない子だこと。』
『いくら顔がよくて学が出来てもあれじゃぁねぇ・・どうして旦那様はあんな子を・・』
『悪魔の子を溺愛なさるなんて、旦那様は正気の沙汰じゃないわ。』
また、幼い頃の夢を見た。
忌まわしい身体を持って生まれた所為で、大人達から誹謗中傷されていた頃の夢を。
「・・兄者?」
ゆっくりとエドアールが目を開けると、そこには自分と同じ深紅の瞳で心配そうに見つめている最愛の弟の姿があった。
「酷く魘(うな)されていたが、大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。子供の頃の夢を見ていたんだ。」
「そうか・・」
エドアールの言葉を聞いたレオンハルトは、眉間に皺を寄せた。
「そんな顔をしないで。たかが夢ごときに怒らないで。」
エドアールはそう言うと、そっと弟の頬を優しく撫でた。
「兄者を傷つけるものは、たとえ夢であっても許さん。」
「ふふ、お前は過保護過ぎるね。僕ばかり構っていると、奥さんに捨てられてしまうよ?」
エドアールがそっとレオンハルトの股間へと手を伸ばすと、そこは再び熱を持ち始めていた。
「お前は元気だね。」
「あ、兄者・・」
「大丈夫、僕に任せて。」
エドアールはレオンハルトの唇を塞ぐと、彼と共に再びシーツの海の中へと潜った。
「アレクサンドラ様、起きていらっしゃいますか?」
「ええ、起きているわよ。何かあったの?」
「皇帝陛下がお呼びです。」
「解ったわ。」
軽く身支度を済ませたアレクサンドラが皇帝の私室へと向かうと、そこにはルドルフの姿と部屋の主であるフランツの姿があった。
「陛下、お呼びでしょうか?」
「アレクサンドラ、これは何だと思う?」
フランツはそう言うと、一枚の紙をアレクサンドラとルドルフに見せた。
その紙は、DNA鑑定書だった。
「これは何でしょうか?」
「とぼけても無駄だ。この紙はクリスティーナとガブリエル、そしてユリウスのDNA鑑定書だ。」
俯いていた顔を上げ、アレクサンドラがフランツの握っているDNA鑑定書を見ると、そこには衝撃の真実が記されていた。
“親子である確率は、99.999%”
「お前達は、ずっとわたしを騙してきたのか?」
「父上、それは・・」
「お前がアレクサンドラを捜す理由が今まで解らなかったし、お前達が男女の関係となっていることも今まで知らなかった。だがそれを知ってしまった以上、お前達には何らかの処分を下すしかない。」
「陛下、わたくし達は罰せられて当然の事をしました。ですが子供達は・・ガブリエルとクリスティーナとユリウスにだけはどうか処罰を与えないでくださいませ!」
アレクサンドラがそう懇願して祖父を見ると、彼は低く唸った後、こう言った。
「考えておこう。ルドルフ、お前はこれからどうするつもりだ?」
「いつか子供達には真実を私の口から伝えるつもりです。その日まで父上、この事は決して口外なさらないでください。」
「いいだろう。二人とももう下がれ。」
「失礼します。」
ルドルフとアレクサンドラが皇帝の部屋から出て行くと、ルドルフはアレクサンドラの手を握った。
「アレクサンドラ、子供達の事は心配しなくていい。」
「ですがお父様、お祖父様は・・」
「父上は冷酷な方ではない。さぁアレクサンドラ、もう休め。」
「お休みなさいませ、お父様。」
「お休み。」
翌朝、ルドルフとアレクサンドラは公務の為プラハへと向かう事になった。
「じゃぁ二人とも、行ってくるわね。」
「行ってらっしゃい、お母様。」
「母上、お気をつけて。」
アレクサンドラは駅まで見送りに来たガブリエルとクリスティーナと抱擁を交わした後、ルドルフと共に専用列車へと乗り込んだ。
二人が乗った列車がカーブを曲がって駅舎から見えなくなるまで、ガブリエルとクリスティーナは彼らに手を振った。
「さぁお二人とも、王宮に戻りますよ。」
「わかった。」
女官達に連れられてクリスティーナが駅舎から出ようとした時、隣に居た筈のガブリエルの姿がないことに彼女は気づいた。
「クリスティーナ様、どちらへ?」
「姉上を捜してくる!」
クリスティーナは女官の手を振り払うと、雑踏の中へと走り出した。
一方、ガブリエルはクリスティーナ達と逸れ、広い駅舎内で迷子になっていた。
(みんな、何処に行っちゃったのかしら?)
ガブリエルがそんな事を思いながら駅舎の出口を探していると、ガブリエルは一人の青年とぶつかった。
「ごめんなさい・・」
「怪我はないかい、お嬢さん?」
そう言ってガブリエルに微笑んで手を差し伸べたのは、エドアールだった。
「天使様・・」
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